ミエリッヒ家のレモン畑〜リモンシリョ ジャバニカ ウォッシュド 2025年7月限定コーヒー (コーヒートラベラーNの手記6)

農園の書庫で見つけた一冊の本

リモンシリョ農園に着いて間もなく、Nは訪問者用の控え室に通された。

壁際の低い書棚に、一冊だけ背表紙が革張りの本があった。

“Historia de Mierisch”――エンボス加工されたその文字を指先でなぞる。

手に取るとずっしりと重く、ページの間から少し乾いた紙の香りが立ち上った。

Nは、静かにページをめくった。

第1章:ブルーノの開拓と始まりの木

第一章には、一枚の古い写真が貼られていた。ドイツ風の服装をまとった若き男性。

「ブルーノ・ミエリッヒ・ボエティガー。1890年代、ニカラグア鉄道建設に従事し、山間部の136ヘクタールの土地を得る。その地を“Las Lajas”と呼び、1908年、ティピカ種の木を最初に植えた」

書き込みは端正で、ところどころに手書きの補足が加えられていた。

Nは思った。この地に立ち、異国の空に挑んだ若者がいたこと。

誇り高くも、静かな始まり。

第2章:博士の帰還と改革

ページを進めると、次に現れたのは「Erwin R. Mierisch」の名前だった。

米国で学び、研究者としての道を選びながらも、農園を継ぐため帰国した三代目。ページには、1990年代以降の改革の記録が綴られていた。

「大量生産からスペシャルティへ。地域共生の哲学を導入し、労働者3000人への福祉制度、教育、医療インフラを整備。品種開発・精製プロセスも改革」

その隣に、鉛筆書きでこう記されていた。

「2001年、帰路の農道で“ジャワ”と記された種袋を拾う。由来不明。育成開始」

何気ない一文だった。

だがNは、その言葉にしばらく指を置いた。

拾われた種。誰にも知られず、名前すらなく、ただ持ち帰られた一粒。

それがやがて、「ジャバニカ」として世界中のロースターを驚かせる存在になる。

ページの余白には、小さなインクで「2007年 CoE 第2位」とだけ記されていた。

第3章:現在を担う若き継承者

最終章には、見覚えのある笑顔があった。

第五世代、エルウィン・ジュニア。通称“Wingo”。

農園の現責任者。発酵制御・乾燥技術の精度を高め、さらなる味の多様性を追求する日々。

どのページも“継承”というより、“更新”という言葉がふさわしかった。

本の中に挟まれた種の記憶

本を閉じる前に、Nはしばらくそのままページを見つめた。

折り込まれた一枚の紙。そこには、くすんだ茶色の種袋の写真が貼られていた。

“Javanica – 2001. sin nombre.”

名もなきときに、味は既に始まっていたのだ。

味わうことで立ち上る時間

カッピングルームの静けさの中で、Nは一杯のジャバニカを手にした。

豆を挽くと、まるでページをめくるように香りが立ち上る。

最初の印象は、驚くほどクリーン。重さやとろみのない、すっと舌の上を滑る質感。

そして、ダージリンのような優雅さをほのかに湛えた酸味が、ゆっくりと口の中に広がっていった。

その余韻の中に、Nはふと、ほんのりとレモンのような爽やかな酸を感じ取った。

紅茶にレモンを一滴垂らしたような、繊細で明るい香り。

その瞬間、記憶の底から“Las Lajas”という言葉が浮かび上がる。

ミエリッヒ家が、この土地を手に入れたときに名付けた名——レモン畑。

100年以上前、ブルーノがこの地で見つけた小さなレモンの木々。

それが耕され、受け継がれ、やがてジャバニカとなり、

いま自分のカップにまで続いていたのだ。

土地の香りは、名前を変えてもなお、香りとして残る。

そのことに気づいたNは、深く、静かに感動していた。

透明な味。

それは名よりも前に存在していた時間の香りだった。

本を閉じ、未来へ向かうまなざし

本を閉じて、Nは深く息をついた。

道端で拾われた無名の種。

異国の土地に根を張った家族の歩み。

名を得る前から宿っていた静かな価値。

そして、自分自身。

いつか、誰かに見出され、拾われた瞬間があったこと。

あの一粒が育った時間を、一杯の中に感じながら、

Nはそっとカップを口元に運んだ。

このコーヒーは、“ジャバニカ”という名前の前にある物語を、今も静かに語っている。

※本記事は、ニカラグアのマタガルバ地区にあるミエリッヒ家によって経営される「リモンシリョ ジャバニカ ウォッシュド」の歴史と特徴を基に創作されたフィクションです。

コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ダージリン、レモン

農園データ

生産国ニカラグア
標高980〜1,350m
品種ジャバニカ
精選ウォッシュド

トラジャの深煎りと、角の家のこと ― セレベスのG1を味わう〜インドネシア セレベス アラビカG1 2025年6月限定コーヒー (コーヒートラベラーNの手記5)

山の町と、柱に並ぶ角

標高1600メートル。セレベス島、トラジャ高地の静かな町に、Nは足を踏み入れた。

空気は澄んでいて、山の影がゆっくりと動いている。ふと見上げた家の柱に、水牛の角が何本も重ねられていた。

「この角はね、葬儀で捧げた水牛の数。つまり、その家の誇りの数です」

近くにいた青年が、少しだけ誇らしげに語った。

派手な飾りではない。ただ静かに、重ねられた角が、ここに生きる人々の時間と誇りを物語っていた。

Nは、言葉ではなく形で残された想いに、深く惹かれた。

湿った島で仕上げられる豆

山あいの農園では、赤く熟したチェリーがかごに集められ、手作業で一つずつ確認されていた。

「この土地は湿気が多いから、時間との勝負です」

農園主が、チェリーを果肉除去機(パルパー)に流し込みながら話す。

果肉が外れた豆は発酵槽で一晩眠り、翌朝、丁寧に水で洗い流される。

そして、まだ水分を多く含んだ状態の豆が、脱穀機へとかけられる。

この地特有の「スマトラ式精製」。湿度の高い気候に適応した、合理的でありながら繊細な工程。

インドネシアは、世界でも有数のコーヒー大国。国全体ではロブスタ種の生産が中心だが、高地ではアラビカ種が静かに育てられている。

それぞれの島が個性を持ち、スマトラ島ではマンデリン、ジャワ島ではティピカ、バリ島やフローレス島、そしてここスラウェシ島では“セレベス・アラビカ”として知られる味が育まれている。

この地のアラビカG1は、湿潤な空気と高地の冷涼な風をまといながら、静かに精製されていく。

手の中の品質

小さな集買所では、麻袋からこぼれた豆が選別台に並べられていた。

「G1は、300グラム中の欠点豆が11粒以下なんです」

スタッフが語る声は落ち着いていたが、その目は真剣だった。

Nは一粒ずつ確かめられていく豆を眺める。誰かの手が、誰かの目が、そのすべてを通って仕上がっていく。

「この豆には、飾りはないけれど、確かに人の想いが積み重なっている」

赤土の丘、昼夜の寒暖差、そして小さな農家のていねいな作業。

味の背後にある風景が、ゆっくりと浮かび上がってくるようだった。

味わう:芯に残る香ばしさ

焙煎されたアラビカG1をミルにかけた瞬間、深く香ばしい香りが立ちのぼる。

豆を挽いたときの匂いには、どこか薪をくべた火のようなあたたかさがある。

ゆっくりと淹れた一杯を口に含む。

まず届くのは、しっかりとした苦味。だがすぐに、丸みを帯びたコクとやわらかな甘みが舌に残る。

深煎りならではの香ばしさが、静かに広がっていく。

「この味は、湿気の中で育ち、人の手で磨かれてきた記憶のようなものだ」

芯の部分にしか残らない何かが、確かにある。

結び:香りで語る、飾らぬ誇り

山の家の柱に並ぶ水牛の角。

豆を選ぶ人の手。雨上がりの斜面に広がる畑。

派手な言葉ではなく、静かな積み重ねが、この味を作っていた。

「形は残らなくても、香りは語る」

Nは、カップの底を見つめながら、小さく息をついた。

焚き火のように、ゆらゆらと漂うその香りのなかに、土地の記憶が溶け込んでいた。

※本記事は、インドネシア・セレベス島のトラジャ&エンレカン地域で生産される「セレベス・アラビカ G1」と、そのスマトラ式精製プロセスを基に創作されたフィクションです。

コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★☆☆

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★★  

フレーバー:ほうじ茶、黒糖、シガー

農園データ

生産国インドネシア
標高約1,500m
品種アラビカ G1
精選スマトラ式(スマトラプロセス/セミウォッシュド)

ケニアのコーヒーはなぜ美味い?〜サファリ(2024年3月限定コーヒー)

ケニアってどこ?

 ケニアは東アフリカに位置する国で、東アフリカでも最も経済の発展しています。
東アフリカの金融中心地である首都ナイロビ、そして東アフリカ最大の港であるモンバサがあります。

ケニア地図

主要産業は農業で、特にコーヒー、紅茶が盛んです。「コーヒー」の始まりは、1893年、スコットランドの伝道師が農園を開拓したことに端を発し、長い歴史を持っています。

ケニアのコーヒーはなぜ美味い

 コーヒーの原種であるケニアのアラビカ種は、標高1,400〜2,000メートルの高地に見られる、火山性土壌で育てられます。

ケニアの平均気温は、19℃くらいで、雨は、一年を通じてほどよく降り、土壌は水はけの良い赤土のロームです。肥沃な赤い火山性土が斜面を厚く覆い、水はけの良い環境を作り出しています。

ほとんど全てのケニアコーヒーは水洗式精製法です。赤く熟した実のみを収穫し、収穫されたコーヒーチェリー(コーヒーの赤い実)は、加工する前に選別され、未熟、加熟、病害のある豆が取り除かれます。そして、加圧して、果肉除去をした後、コーヒー豆を乾燥台の上で天日干しにします。

ケニアコーヒーの生産は、種からコップに注がれるまでシステム的な要網に従っていて、苗床、農園、果肉除去、豆の破砕、格付けと全てが管理されています。

ケニアのサファリ

 本コーヒー「サファリ」は、毎年1万ロット以上のケニアコーヒーを鑑定する現地の専門家が、カップ評価をして厳選したコーヒーです。絶妙なバランスで産み出される、力強くも鮮やかなカップ品質です。

オレンジが突き抜ける

 カップに近づけた瞬間、シトラスの香り高さが鼻を伸びやかに突き抜けていきます。

口当たりはとても柔らかくなめらか。しっかりとコクも感じます。

甘味、酸味と全体バランスも良いです。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

フレーバー:オレンジ、木の皮、ナッツ

農園データ

生産国ケニア
生産地域キリンヤガ地区、キアンブ地区、ニエリ地区、ゴンゴマ地区、ケリチョ地区
品種SL28、SL34
標高1,750〜1,900m
精製ウォッシュド(水洗)

赤道直下、アンデス火山から届いたアンバランスさと瑞々しさ〜エクアドルSHBチト(2023年7月)

赤道という名の国

 エクアドルのコーヒーについて少し紹介しましょう。「エクアドル」とは実は、スペイン語で「赤道」という意味で、その名の通り赤道直下に位置している国です。アンデス山脈が国土を通り、大部分が山岳地帯に覆われています。赤道の熱帯地域と、アンデス山脈の火山灰土壌がコーヒー生産にとっても非常に適した場所であることがわかります。

 エクアドルは、15世紀には、インカ帝国に支配下にあり、1526年スペインのフランシスコ・ピサロの侵攻二よりスペイン植民地となりましたが、1830年に独立しました。エクアドルには、独特の進化をする動植物の宝庫と言われるガラパゴス諸島があります。

フランスの探検隊が持ち込んだブルボン

 エクアドルのコーヒー豆の歴史についてですが、最初にコーヒーの木が持ち込まれたのは19世紀にフランスの探検家がブルボン種を持ち込んだと言われています。火山灰質の土壌、アンデス山脈の高山地帯で寒暖差が大きいなど、コーヒー豆の栽培に適しており、コーヒー豆栽培は産業の中心となりました。

エクアドルは、量産品であるインスタントコーヒー用豆の一大産地でもあり、インスタントコーヒーの原料に使われているロブスタ種の栽培も行っており、その比率はアラビカ種6割に対してロブスタ種が4割となっています。

希少品種ティピカ・メホラード

 エクアドルのコーヒー生産地としては、アラビカ種のコーヒー豆を国内で一番多く生産している沿岸部のマナビ地方、生産量は国内の約50%を占めていて、標高200〜700mの低いエリアで大量生産を実現しています。次が、内陸の南部にあるロハ地方で、国内の約20%がここで栽培されています。栽培地の標高は1000m~2000mと栽培には最も適した高さです。そのため品質が高く、ロハ地方のコーヒーはコーヒー品評会にも多く登場しています。

今回のコーヒーは、チトはロハからさらに南へいったエクアドル最南端にあります。標高1500m、良質な土壌と気候に恵まれ、近年は、スペシャリティコーヒーの生産を増やしていくことを目指しています。

先月ご提供したたボリビアコーヒー「ビオ・アラビカ」もアンデス山脈のコーヒーでしたね。

今回のコーヒーの品種はティピカ・メホラードです。ブルボン種と、エチオピア原種を交配したものと判明しており、非常に珍しい

アンバランスさから溢れる瑞々しさ

 口に含んだ瞬間から柑橘の酸味が強く現れます。しかし、同時に甘味も隠れていて、まろかやさで包まれます。余韻には青みのある渋さが残り、ここは好き嫌いがありそうです。まだ、全体的に、アンバランスさがありつつも、瑞々しさとビビッドな風味は特徴的で面白いです。将来に期待したいポテンシャルを感じます。

苦味 ★★☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:レモン、青草、鉄、焼き芋

農園データ

生産国エクアドル
生産地域サモラ・チンチペ県チト地区
生産高度1,543m
精選方法ウォッシュド
収穫時期

アンデスの宝石コーヒー〜ボリビア ビオ・アラビカ(2023年6月)

アンデス山脈のコーヒー

 ボリビアのコーヒーについて紹介したいと思います。ボリビアは南米大陸に位置し、国土の30%以上をアンデス山脈が占めています。ボリビアの首都である「ラパス」は、標高が3500mもあり世界一高い首都と呼ばれ有名です。

コーヒー生産地として最も有名なブラジルやペルーに隣接していて、コーヒー栽培に適した地形や気候となっています。

ボリビアのコーヒーの歴史についても触れたいと思います。

19世紀のスペイン植民地時代に入植したスペイン人によって始められました。当初は、首都ラパスの近くで始まりましたが、標高が3000m以上の土地が多く、土壌も痩せていたために、コーヒー栽培はうまくいかなったようです。

その後、栽培をする土地の標高を徐々に下げていき、標高1000~2000mの山の斜面などで栽培されるようになると、コーヒー豆の栽培は安定し、生産量は増加していったようです。

ラパス北東にあるアンデス山脈の北東山嶺ユンガス地方のコパカバーナ農園のコーヒー豆は質の良いものとして輸出されています。当店でも以前コパカバーナ農園のコーヒーをご提供したことがあります。

カラナビの若き生産者

 ラパスから北東、アンデス山脈をすこし下がった先のカラナビ地方、その山脈には肥沃な土壌が広がっており、山肌全体を覆うほどの雲霧がもたらす恵みの雨と相まって、多くの生命を育んでいます。

そんなカラナビ地方でコーヒーを生産するビオ・アラビカ生産者組合は30代の若い生産者たちを主体とした小さな組合です。

農園の標高は1,000~1,750mで、1日の間でも寒暖差が大きく、熱帯雲霧林気候で降水量も多く、コーヒー栽培に適しています。

豊かな自然との共生を目指す循環型農業により赤々と熟したコーヒーチェリーは、急峻な山中で彼らの手で丁寧に手摘みされ、わたしたちの手にやってきます。

赤く熟した実をハンドピックで収穫し、ウォッシュドで精製しています。

口の中で豆が砕ける

 甘いベリーが香ります。口当たりとても柔らかい、しかし、一気に広がる豆の香ばしさ、飲んだ後も砕けた豆の風味が漂い続けます。穏やかな酸味は、深いコクとバランスして、心地よいです。深く長いコクが余韻に残ります。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:ベリー、オレンジ、檜

農園データ

生産国ボリビア多民族国
生産地域ラパス県カラナビ郡
生産高度1,000〜1,750m
精選方法ウォッシュド
収穫時期5月〜9月

その一杯がピューマを救う〜グアテマラコーヒー(2022年9月)

中米のコーヒーキング、グアテマラ

 さて、今月のコーヒーは中米グアテマラからです。グアテマラは、太平洋とカリブ海に面する亜熱帯型に位置します。国土の約70%が火山に囲まれた山岳地帯になっています。厳しい寒暖差や豊富な雨量、火山灰の土壌などコーヒー栽培には絶好の条件がそろっており、高い品質のコーヒー豆を生産しています。火山とコーヒーの関係についてはこちらの記事参照

 グアテマラは18世紀中ごろにコーヒーが持ち込まれ、栽培が開始されたといわれています。グアテマラはスペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質コーヒーを生産する主要な産地でもあります。世界最高峰のコーヒー品評会であるカップ・オブ・エクセレンスにも20年以上前から参画しています。コーヒー豆の輸出先はアメリカ・カナダに次いで日本が第3位です。

 グアテマラでは独自の品質等級を設けています。標高が高くなるほど風味も豊かになり高品質とされ、等級は生産地の高度で7等級に分けられ、最高等級は標高1350m以上のSHB(ストリクトリーハードビーン)、1200~1350mはHB(ハードビーン)、以下SH(セミハードビーン)、EPW(エクストラプライムウォッシュド)、PW、EGW、GWとなります。

標高3000メートルのヤマネコを探して

 今月のコーヒーカフェ・ピューマは、SHBグレードのコーヒーです。在来のアラビカ種であるブルボン、カツーラ、ティピカ種のコーヒー豆を、伝統的な水洗式の精選、天日乾燥によって生産された貴重なコーヒーです。

 さて、グアテマラの標高の高い火山の森は、絶滅の危機に瀕するピューマの生息地でもあります。「最強のヤマネコ」とも呼ばれるピューマは、標高3000メートルの高地においても生息することができます。6メートル近いジャンプ力を誇り、獲物を背後から襲います。ピューマの棲むことのできる森は年々減りつつあり、その頭数も減少し続けています。

 カフェ・ピューマの輸出企業であるボルカフェは、自然保護活動の一環として、本コーヒーの売上の一部を、野生ピューマの保護団体であるパンセラ・グアテマラに寄付しています。

このコーヒーを一杯飲むことで、ガテマラの伝統的なコーヒー農家そして、野生のピューマの保護への貢献にも繋がるのです。

保護活動を伝えるボルカフェInstagram

ボルカフェのSDGsステートメント

ずっと口の中に入れていたいコーヒー

 淹れたてのコーヒーからナッツとオレンジの香りが伸びやかに広がります。とてもまろやかに、もぐもぐと味わって飲みたくなる香ばしさに溢れています。

苦味はなく、酸味はキュートな感触で、楽しさを感じることができます。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ナッツ、カカオ、オレンジ

コンゴ マウンテンゴリラとアラビカコーヒーの話

新年あけましておめでとうございます。2022年1月限定コーヒーはからコンゴ「ビルンガパーク」です。

マウンテンゴリラが絶滅の危機にあるようだ。アフリカ中西部に生息し、そのDNAの98.3%は人間と同じで、笑いや悲しみといった感情を持つという。

その個体の3分の1は、コンゴの東端にあり、ルワンダ国境に近い「ビルンガ国立公園」に生息している。

この公園というと、人が集まり憩う場所というイメージだが、世界遺産に登録された7800km2 の自然は、公園というよりは野生保護区という表現が近いかもしれない。

放っておけば人間による乱獲と開発が繰り返され、野生の動植物は駆逐され、絶滅する一方であり、希少な種を「意図的に」保護するために国家により規制されている、というわけである。

しかし、この「保護区」に生息するマウンテンゴリラが絶滅しそうだという。その理由は、やはり人だ。

ビルンガ公園に隣接する隣国ルワンダでは、90年代に民族紛争が起こり大量虐殺も起きた。その頃に100万人以上の難民がコンゴになだれ込み、公園は難民キャンプとなった。そこから政治的な武装集団が生まれ、対立は公園にまで飛び火し、混乱の中でゴリラも密猟や生息地の荒廃により危機的な状況にあるようだ。

(ルワンダで起きた虐殺をテーマとした「ホテル・ルワンダ」という映画も有名)

周辺のコーヒー農家もマウンテンゴリラと同様に影響を受けていた。そもそも2,000m以上の標高、火山灰からなるミネラル分豊富な赤土、とアフリカのコーヒーベルトの中でもこの一体の土壌はコーヒー生産にとっては最高の環境であったにも関わらず、周辺の内乱や、そして適切な生産方法も販路もないために、粗悪な品質と低利益に陥っていたのだ。

ゲームチェンジが起きたのは、ファームアフリカというアフリカの農家を支援する慈善団体に大規模農業プロジェクトが始まったことだった。数々の専門家も巻き込み、本格的なプログラムが導入されたのだ。

・コーヒーとシェードツリーの苗床を設置
・作物の多様化を含む、適切な農業慣行のトレーニング
・健全なビジネスプランの育成と運転資金へのアクセス
・フェアトレードとオーガニックの認証取得
・コーヒーの品質管理、評価、コントロールに関する協同組合スタッフのトレーニング
・生産者がコーヒーの品質を監視し改善できるよう、カッピングラボの設置やマイクロウォッシングステーションのインフラと作業方法の改善
・現地の加工・保管能力の向上
・市場の開拓と確保

ビルンガ国立公園と共同で行なったプロジェクトは、EUからの資金援助を受け、本格的に実行され、また、北米の大手コーヒー卸も参画し、2020年に初めてのスペシャリティーグレードのロットが市場に出荷された。

この取り組みの成功は、公園周辺の農家と経済の安定化は、国立公園とそこで生きるマウンテンゴリラを始めとする野生保護にも大きな意味を持たらした。

コーヒーの秀逸さは、その余韻の美しさとその持続時間にあると思っておりますが、このコーヒーはその点においては比類のないものとなっています。

風味は豊かに、飲む程にフローラルな香りが優雅に広がります。

柑橘の酸味はほんのりと、深いコクが全体のバランスを引き締めます。

コーヒーをただ楽しむのに加え、ふと、紛争に荒らされたアフリカの農民やマウンテンゴリラの笑顔を浮かべると、なんだか美味しさがさらに増してくるように思えます。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★

甘み ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:オレンジ、黒糖、フローラル

ベトナムコーヒーダムダ 変化と成長の国

5月のコーヒーはベトナム「ダムダ」です。筆者もベトナムに幾度か出張で訪れたことがありますので、その時の写真も一緒に添えさせて頂きます。

ベトナムという国は実はコーヒーを飲む人は大変多く、

街にはコーヒーショップが溢れます。若者向けのおしゃれなコーヒースタンドも

また、

ベトナム式コーヒーというとても濃く苦味のあるドゥミタスコーヒーのようなスタイルに、砂糖をたっぷり入れてのむ伝統コーヒーも有名です。

成長盛んな東南アジアの中でも世界の工場として(メードインベトナムのタグは服やスニーカーなどでよく見ますよね)、そして近年ではIT産業として、大変脚光を浴びている国です。

ダムダとは、ベトナム語で、コーヒーがおいしい時、香りが良い時の感嘆詞、日本語だと、「うまい」でしょうか。

ベトナムのコーヒーはロブスタ種が大半ですが、

ダムダはスマトラ式で精選されたアラビカコーヒーとなります。

 

最初の印象は舌にざらざらした苦味と酸味

なんだかアンバランスだけど、飲みこんだ余韻には、

しっかりとうまみとコクが残る。

決して洗練されていないけど、秘めた力強さや

成長エネルギーに溢れるベトナムという国を思い浮かべてしまいます。

写真はベトナムで有名なバインミーです。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★☆☆

焙煎 ★☆☆

 

赤道直下のアラビカ、バナナシェードに育まれて


11月のコーヒーはエクアドルから「エクアドル グレートマウンテン」です。

エクアドルは赤道直下に位置し、南部の高地と西部の海外でアラビカ種のコーヒーが生産されています。

 

グレートマウンテンは、年間降水量が安定した高地のマナビ地区で栽培され、

高級アラビカコーヒー産地として名高い産地です。

バナナやココアのシェードツリーの日陰と最適な湿度の中で、

大粒のコーヒーが出来上がります。

 

前回のエクアドルコーヒーの記事はこちら。

口に含むとナッツの触感が広がります。
舌にからまる酸味を追いかけるように深いコクが広がります。
後味は軽く、余韻は爽やかです。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

焙煎 ★☆☆

タンザニアの山々がかなでる重奏曲


2月になって、寒さをいっそう厳しくなるほど、春が待ち遠しいですね。

花粉症でしたら、マスクを外せないつらい時期の始まりでもあります。

管理人もその一人ですが、昨年から新たに予防治療を始めまして、今年の花粉症はその効き目がどうなのか、気になるところであります。

さて、2月のコーヒーのご紹介です。

「タンザニア カンジラルジ 農園AA」です。

タンザニアコーヒー豆

 

タンザニアのコーヒー生産地域にはキリマンジャロ、メルーの山麓に広がる北部地区、西側の国境付近の西部地区、マラウィとの国境付近の南部地区などがあります。

最も標高が高いのは、5895mのキリマンジャロ山で、自然保護地域が数多く存在しています。

タンザニアにおいて、コーヒー栽培は最も重要な作物の一つであり、 85%以上は小規模農家によって生産されています。

これまでは「キリマンジャロ」として有名なアラビカコーヒーは、北部 キリマンジャロ山麓で栽培が始まり、広がりましたが、現在はンベア地区など、南部地域に生産が拡大しております。

以前もキリマンジャロコーヒーオルデアニ地区のコーヒーをご紹介したことがあります。

近年、品質の向上が著しいタンザニア南部に位置する「カンジラルジ農園」のコーヒーです。 是非、一度お試し下さい。

さて、味は、

タンザニアコーヒー豆

カップに鼻を近づけた途端、香りが伸びやかに広がります。

口に含むと、豆の香ばしさがいっそうあふれ出します。

豆からこぼれる心地よい酸味が刺激しつつ、

飲むほどに豊かな香りが重奏曲のように心地よく重なります。

ストレートコーヒーが紡ぎだす究極のバランス、タンザニアの逸品を是非味わってください。

—-風味バランス—-

苦味 ★★☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★