西原珈琲店日本橋浜町は、2月14日にオープンします。
また、2月6日金曜日からは、11時半から19時までのお時間でシークレットオープンいたします。一部不定休がございますことご了承ください。
コーヒー、西原プリン、西原チーズケーキなど当店看板メニューをこの期間にもお楽しみ頂けます。是非お立ち寄りください。
店名:西原珈琲店 日本橋浜町
住所:東京都中央区日本橋浜町2丁目51ー1 GoogleMap



シークレットオープンメニュー


西原珈琲店日本橋浜町は、2月14日にオープンします。
また、2月6日金曜日からは、11時半から19時までのお時間でシークレットオープンいたします。一部不定休がございますことご了承ください。
コーヒー、西原プリン、西原チーズケーキなど当店看板メニューをこの期間にもお楽しみ頂けます。是非お立ち寄りください。
店名:西原珈琲店 日本橋浜町
住所:東京都中央区日本橋浜町2丁目51ー1 GoogleMap



シークレットオープンメニュー



1987年に名古屋本山にて創業した西原珈琲店、
2026年に東京、日本橋浜町の地に出店することとなりました。
江戸時代は細川家、島津家と筆頭とする武家屋敷として、明治には格式ある料亭文化が花開き、現在も創業150年の明治座、隅田川の水辺、そして新旧の店や街並みに彩られた街、
そんな歴史と新旧文化が重なり発展し続ける日本橋浜町にて、
2026年、
西原珈琲店が生まれます。
店名:西原珈琲店 日本橋浜町
住所:東京都中央区日本橋浜町2丁目51ー1 GoogleMap
開店日:2026年2月14日 11時半より
2月15日からは10時から22時まで毎日営業します。
現在シークレットオープン中 詳細はこちら
詳細情報は当HPまた、以下公式SNSにて順次案内させて頂きます。
併せてオープンスタッフも募集しております。以下採用ページをご覧ください。

四輪駆動車が泥濘(ぬかるみ)を跳ね上げながら、鬱蒼(うっそう)と茂る深い森の中を進んでいく。
窓を開けると、むせ返るような濃密な緑の匂いと、どこかの村から漂ってくるのか、微かに木が燃えるような炭の匂いが鼻をかすめた。
「すごい道だろう? だが、この奥にこそ『スペシャルティーコーヒーの最後の楽園』があるんだ」
ハンドルを握るガイドが、ルームミラー越しに笑いかけてきた。 ここはパプアニューギニア。肥沃な土壌を持ち、コーヒー栽培のポテンシャルが非常に高い土地だ。一部のマニアの間では知られながらも、日本市場には直接紹介されることのなかった幻のコーヒーが眠っているという。
東ハイランド県、カイナントゥ市の南方。 車が切り立った谷沿いの道に差し掛かると、眼下に激しく渦巻く濁流が見えた。ふと、その川の真ん中に奇妙な光景を見つけた。濁流が容赦なく打ち付けているというのに、微動だにしない巨大な岩が一つ、静かに鎮座しているのだ。
「あれは……?」コーヒートラベラーNは思わず聞いた。
「バロイダの岩さ。どれほど恐ろしい洪水が起きても、周りの石がすべて押し流されても、あの岩だけは決して動かない。精霊が宿っているんだ」
ガイドが指差した先、その「動かざる岩」を見下ろすような斜面に、目指す場所はあった。パプアニューギニアで最高レベルと評される、コルブラン農園だ。
標高1,615メートルから1,839メートルという、肌寒いほどの高地。 車を降りると、そこには荒々しいジャングルとは打って変わって、見渡す限り美しく整えられた緑の斜面が広がっていた。総面積は300ヘクタールにも及ぶという。
「遠いところを、よく来てくれたわね」
ふかふかとした黒い土を踏みしめながら歩いてきたのは、現在の農園主であるニコール氏だった。彼女の手は泥にまみれ、深く刻まれた皺(しわ)にはこの土地で生きてきた誇りが滲んでいた。

「ここは1962年に創業したの。周りの農園が次々と消えていく中で、私たちはこの場所を守り抜いてきたわ」
「これだけ広大な農地を、どうやって維持しているんですか?」
Nが尋ねると、彼女は足元の土を軽く蹴ってみせた。
「見ての通り、除草剤は基本的に使わないわ。手作業やトラクターを使って、泥まみれになって除草しているの。途方もない手間だけれど、丁寧に農園管理と精製を行うことが、この土地への礼儀だから」
彼女に案内された先には、小さな苗床があった。
「ここでは主にブルボン種やムンドノーボ種を育てているの。過酷な環境だけど、あの子たちは強いわ」
吹き下ろす冷たい風の中で、若木たちが青々とした葉を揺らしている。その実直でたくましい姿は、あの激流の中で耐え抜くバロイダの岩に重なって見えた。
Nは、静かな部屋でコルブラン農園の豆を挽いていた。 やや深く焙煎されたその豆に湯を落とすと、カップから不思議な香りが立ち上った。
「……なんだろう、この香りは」
Nは思わず目を閉じた。それは華やかな花や果実ではない。パプアニューギニアの深い森の奥深くを歩いているような、湿った木やアーモンド、そして微かに炭を思わせる、香ばしくて奥行きのある匂いだ。
一口、口に含む。
最初に訪れたのは、少し舌が痺れるような、大地のエネルギーそのもののような野性味だった。しかし、二口目を飲む頃にはその痺れはすっと馴染み、圧倒的なコク深さとうまみが押し寄せてくる。
しっかりとした豆の香ばしさと、輪郭のある苦味。しかし、ただ苦いだけではない。
「……甘い」
深い、深い森の底に隠された湧き水のように、黒砂糖のような深い甘味のような印象が、たしかに舌に残るのだ。やや深く焙煎されているにも関わらず、奥底に本来の華やかさがそのまま保たれている。
見事なまでに、ボディを感じられるコーヒーだ。 表面は無骨で力強いが、その内側には、この土地が長い時間をかけて蓄えた優しくて甘い記憶が詰まっている。それはまさに、コルブラン一族が守り抜いてきた「動かざる信念」そのものの味だった。

一杯を飲み終えた後も、木の心地よい余韻が、長く舌の上に残っていた。
世の中には、派手で分かりやすい味のコーヒーがたくさんある。しかし、このコルブラン農園のコーヒーは違う。流行に流されることなく、自分たちの土地の味をただ実直に表現し続ける味だ。
もしあなたが、日々の激流に少し疲れを感じているなら。
このパプアニューギニアの深い森が生んだ一杯を、ゆっくりと味わってみてほしい。
そのしっかりとした苦味と、奥に潜むほんのりとした甘さが、あなたの心に静かで揺るぎない時間を取り戻してくれるはずだ。
3月限定 パパアニューギニア コルブラン農園
パプアニューギニア・東ハイランドの奥地で、半世紀以上変わらぬ信念のもと作られた奇跡のコーヒー。木やアーモンドを思わせる不思議な香りと、深い苦味の中に潜む黒砂糖のような甘味が、飲む人の心を静かに満たします。
フレーバー:
木、アーモンド、炭、黒糖
Profile:
Data:
面積: 300ヘクタール
生産国: パプアニューギニア (Papua New Guinea)
地域: 東ハイランド県 カイナントゥ市南方
農園: コルブラン農園
標高: 1,615m – 1,839m
品種: ブルボン種、ムンドノーボ種

世界には、地図を広げながら飲みたくなるコーヒーがある。
今回の旅先は、中米の細長い地峡、パナマだ。
その西部に、標高3,475メートルを誇る国内最高峰がそびえ立っている。バル火山。この山の頂は、地球上でも稀有な場所だ。晴れた日には、西に広がる太平洋と、東に広がるカリブ海の両方を、同時に肉眼で捉えることができるからだ。
「この山こそが、コーヒーの生みの親だ」
案内してくれた現地の農園主、カルロスが誇らしげに言った。彼の顔には、高地の強い紫外線が刻んだ深い皺がある。
今回のコーヒー、パナマ SHB ボルカンバルは、この巨大な大陸の背骨の東側、ボケテ地区の深い谷で生まれた。
二つの海を見下ろす山。その壮大な視座が、カップの中にどんな風景を描き出すのか。Nは期待を胸に、湿った土の匂いが立ち込める山道を降りていった。

農園へ向かう前に、Nはボケテの街を少し歩いてみることにした。
カルデラ川という名の、雪解け水のように澄んだ急流が街の中央を貫いている。川にかかる橋の上に立つと、冷涼な水飛沫とともに、甘く濃厚な花の香りが風に乗って漂ってきた。
ここは常春の谷とも、花の谷とも呼ばれている。
その名の通り、通りのいたるところでブーゲンビリアやハイビスカスが競うように咲き乱れ、民家の庭先からはオレンジやレモンの木が枝を伸ばしている。
メインストリートは活気に満ちていた。
市場には、近隣の農家が持ち寄った新鮮な野菜や果物が山積みにされ、土と緑の匂いが立ち込める。その間を行き交う人々の中に、ひときわ目を引く姿があった。
幾何学模様の刺繍が施された、鮮やかな色のドレスを纏った女性たち。
この地の先住民族、ノベ・ブグレ族の人々だ。彼女たちの纏う極彩色のドレスはナグアと呼ばれ、この緑深い谷の風景に鮮烈な彩りを添えている。
彼女たちはカゴを背負い、静かなスペイン語や独自の言葉を交わしながら、コーヒーの収穫や市場での買い物にいそしんでいる。

古い開拓時代の面影を残す木造の建物と、モダンなカフェ、そして先住民の伝統的な暮らし。それらが不思議な調和を保ちながら、この谷の空気を作っている。
どこからか、香ばしいナッツのような焙煎香が漂ってきた。街全体が、コーヒーという文化のゆりかごの中にいるようだ。
街を抜け、さらに標高を上げると、肌に感じる空気が一変した。
太平洋側に位置しているはずなのに、空気はしっとりと重く、どこか遠い海の匂いがする。
「妙な天気でしょう? 空は明るいのに、雨が降っている」
カルロスが空を指差して笑った。
見上げると、細かい霧のような雨が、強い風に乗って谷を流れていく。
「これがバハレケだ」
カリブ海から吹き付ける湿った貿易風が、バル火山の山肌を駆け上がり、この谷へと吹き下ろす。この時、風は冷やされ、天然のシャワーとなってコーヒーの木々を濡らすのだ。
ふと、雲の切れ間から強烈な陽射しが差し込んだ。瞬間、霧のスクリーンに巨大な虹が架かる。
「ようこそ、虹の谷へ」
この激しい気候のコントラストこそが、ボケテ産コーヒーの味の決定打だ。
霧のカーテンは直射日光を遮り、湿度は日陰を作り出す。コーヒーチェリーは、冷蔵庫の中にいるようにゆっくりと成熟し、その小さな種子に驚くほどの糖分と、クリーミーな密度を蓄えていく。
風が通り抜けるたびに、コーヒーの木々は揺れ、その実に甘みを蓄えていく。
それはまるで、二つの海を結ぶ風が、味の通り道を作っているかのようだ。

標高1,350メートル以上。
呼吸が少し浅くなるこの急斜面で、Nは足元の木々に目を留めた。
強風が吹き荒れているにも関わらず、そのコーヒーの木々は倒れることなく、地面に踏ん張るように低く構えている。
「カツアイだ。こいつは背が低くて頑丈なんだよ」
カルロスが愛おしそうに、赤く熟した実を撫でた。
「ゲイシャのような派手さはない。だが、この風の通り道で生き抜くには、この強さが必要なんだ」
彼は続けた。
「この過酷な環境で、実はゆっくりと硬くなる。夜の冷え込みがさらに身を引き締める。そうして生き残った豆だけが、SHB(ストリクトリー・ハード・ビーン)という最高等級を名乗れるんだ」
この銘柄にはさらにEP(ヨーロピアン・プレパレーション)という称号も付いている。
それは、ヨーロッパ市場向けの極めて厳格な選別基準をクリアした証。
「妥協は一切ない。この山のように、揺るぎない品質だけを届けるんだ」
カルロスの瞳には、職人の誇りと、自然への畏敬が宿っていた。
農園のテラスで、カルロスが淹れてくれたコーヒーをいただく。
立ち上る湯気の中に、ローストされたナッツのような香ばしさと、バル火山の風を感じる。
一口含むと、Nは思わず眉を上げた。
「……面白い酸味だ」
それは単調な酸っぱさではない。
最初は明るく弾けるような印象だが、すぐに角が取れ、まろやかで果実感のある甘酸っぱさへと変化していく。まるで、もぎたてのオレンジをかじった時のようなジューシーさだ。
そして、その奥から現れるしっかりとしたコク。
バハレケの霧が育んだ豆の密度が、クリーミーな質感となって舌を包み込む。
飲み込んだ後、舌の上にわずかに残る心地よい渋み。
それは嫌な雑味ではなく、ワインのタンニンのように味の輪郭を引き締める余韻だ。この火山の土壌が持つ力強さが、最後の最後に顔を覗かせる。
「どうだい? ここは太平洋側だが、味はカリビアンだろう?」
カルロスがニカっと笑った。
確かにそうだ。この開放感、この陽気な余韻。
日本の凍えるような2月の寒さを忘れさせる、圧倒的な常夏気分がそこにあった。
これは、境界を越える味だ。
太平洋と大西洋、酸味と甘み、そして滑らかさと微かな渋み。
それらを分ける線を、このコーヒーは鮮やかに融解させていく。

日本へ戻り、2月の寒空の下、Nは再び地図を広げた。
指先でパナマの小さな点をなぞる。
バル火山の頂きから見る景色は、きっとこんな味なのだろう。
圧倒的な開放感と、どこまでも続く水平線。
もしあなたが、日々の閉塞感や冬の寒さに縮こまっているなら、この二つの海を見る山のコーヒーを飲んでみてほしい。
そのまろやかな酸味としっかりとしたコクは、あなたの心にある境界線さえも、きっと軽やかに越えさせてくれるはずだ。
あなたのカップに、大陸の風を。
2月限定 パナマ SHB ボルカンバル
パナマ最高峰の麓、風と霧が育んだボケテ地区の傑作。
カリブの風がもたらす果実感のある酸味と、高地栽培ならではのしっかりとしたコクが、冬の日常に鮮やかな風を吹き込みます。
Profile:
苦味:★★☆ (ほどよい苦みで飲みやすく)
酸味:★★★ (まろやかで果実感のある酸味)
コク:★★★ (しっかりとしたボディ感)
甘味:★★☆ (ナッツや果実のような甘み)
焙煎:Medium Roast (中煎りから中深煎り)
Data:
生産国: パナマ
地域: チリキ県 ポケテ地区
標高: 1,350m以上
品種: カツアイ
精製: ウォッシュド
標高3,600メートル。飛行機のタラップを降りた瞬間、希薄な空気が肺を小さく締め付ける。ボリビアの実質上の首都、ラパス。アンデス山脈の巨大なすり鉢状の盆地に、赤茶色のレンガ造りの街並みがへばりつくように広がっている。
夜になると、この街は姿を変える。すり鉢の縁までびっしりと灯った街明かりが、まるで宝石箱をひっくり返したように輝くのだ。冷たく乾いた夜風に乗って、どこからか不思議な香りが漂ってくる。
Nは石畳の坂道を歩きながら、その香りの正体を探った。それは、道端の屋台で売られているムニャなどのアンデスの薬草や、独特のスパイスが混じり合った香りだ。清涼感がありながら、どこか土着的な温かみがある。
この乾いた風の中にふと感じるスパイシーな気配。これから向かうコーヒーの奥底にも、これと同じ、大地に根ざした静かな香りが潜んでいる予感がした。

翌朝、Nは車で北東へ向かう。目指すはユンガス。アンデスの乾燥した高地と、アマゾンの湿潤な熱帯雨林が衝突する場所だ。
かつての難所を越え、標高が下がるにつれて、景色は劇的に変化する。乾燥した岩肌は姿を消し、視界は真っ白な霧に覆われた。肌にまとわりつくような濃厚な湿気。ここには、アマゾンの熱い息吹がアンデスの冷たい壁にぶつかり、永遠に晴れることのない雲海が広がっている。
この湿潤な気候こそが、ボリビアコーヒーの秘密だ。常に霧に包まれた環境は、コーヒーチェリーの成熟をゆっくりとしたものにする。直射日光を遮る霧の中で、豆はじっくりと糖分を蓄え、まるで木の樽の中で眠る果実のように、複雑な風味を育んでいく。

霧のカーテンを抜けた先、標高1,500メートルの急斜面にコパカバーナ農園はあった。出迎えてくれたのは、農園主のマリア・アスカルンス氏。彼女はこの農園の二代目であり、スペイン・ガリシア地方から続く古い家系の末裔だ。
農園の看板を見上げ、Nはふと疑問を口にした。
「コパカバーナといえば、ここから遠く離れたチチカカ湖畔の街の名ではありませんか?」
マリアは霧の彼方を見つめ、静かに微笑んだ。
「ええ、地図の上では遠いわ。でも、コパカバーナという言葉は、アイマラ語で『コタ・カウアーナ』、つまり『湖の眺め』や『湖の展望台』を意味するの」

彼女は言葉を継いだ。チチカカ湖は、インカ神話における太陽神インティが生まれたとされる聖なる場所。そして、このユンガスの地もまた、アンデスの山々と湿潤な空気に抱かれた、命が生まれる場所なのだと。
「私たちは、この名を単なる飾りとして付けたわけではないの。この深い霧がもたらす恵みは、あの聖なる湖の湿潤な気候と同じ。ここは私たちにとって、パチャママ、母なる大地なの」
彼女の言葉には、自然への畏敬が滲んでいた。この農園名はアンデスの自然崇拝と、この地での農業が分かち難く結びついていることの証なのだ。
父から受け継いだティピカの木々が、霧の中で静かに呼吸している。古き良き品種を守り、現代の技術で磨き上げる。マリアのその覚悟は、聖なる湖への祈りにも似た、静かで強い意志だった。

「夜に飲むのもおすすめよ」
マリアが淹れてくれたコーヒーを、農園のテラスでいただく。あたりは既に深い夜の闇に包まれていた。
カップから立ち上る香りを吸い込んだ瞬間、Nは息を止めた。
「これは……樽の芳香?」
そこには、長い時間をかけて熟成されたような、木のウイスキー樽を思わせる芳醇な香りがあった。ユンガスの霧が生んだ、ゆっくりとした発酵の記憶だ。
一口含むと、苦味が舌を撫でる。だが、それは攻撃的な苦味ではない。深い森の木々を思わせる落ち着きの中に、ほんのりとアジアンハーブのようなスパイシーな渋みが見え隠れする。そしてその奥から、カシューナッツのような滑らかな甘みがじわじわと湧き上がってくる。
「不思議だ。まるでお酒を傾けたように、心がほどけていく」
一日の終わりに、自分自身と向き合うための夜のコーヒー。マリアの祈りにも似た丁寧な管理と、ティピカ種が持つ野生の記憶が、この複雑な余韻を作り出している。
「聖なる湖の夢を見ているようね」
マリアが呟く。受け継がれた神話と、この土地の風土が、一杯の中で溶け合っていた。

日本の冬、凍えるような夜。Nは、持ち帰った豆を挽き、丁寧にドリップする。
部屋に広がるのは、あのラパスの夜市の気配と、ユンガスの霧の匂い。一口飲めば、たちまち意識はアンデスの雲の上へと飛ぶ。木の樽のような芳醇な香りと、ナッツの甘い余韻。それは、静寂な夜の読書や、大切な思索の時間に、何よりも深く寄り添ってくれる。
これは、旅をするように味わう、大人のための琥珀色の時間だ。
この物語を、あなたのカップで。

西原珈琲店にて、1月限定ボリビア コパカバーナ農園をぜひお楽しみください。木の樽を思わせる芳醇な香りと、ほんのりとしたハーブやカシューナッツが織りなす複雑な余韻。伝統あるティピカ種を二代目マリア氏が現代の技術で磨き上げた、夜にも味わいたい一杯です。
商品データと風味
| 項目 | 詳細 |
| 生産国 | ボリビア多民族国 |
| エリア | ラパス県 ユンガス地方 カラナヴィ郡 |
| 農園/生産者 | コパカバーナ農園 / マリア・アスカルンス |
| 標高 | 1,350m ~ 1,550m |
| 品種 | ティピカ種 |
| 精選 | ウォッシュド(水洗式) |
風味バランス
| 苦味 | 酸味 | コク | 甘味 | 焙煎 |
| ★★★ | ★☆☆ | ★★☆ | ★☆☆ | ★★☆ |
フレーバーノート:樽の香り、ほんのりとしたハーブ、カシューナッツ、複雑な余韻
日本の12月、寒さが骨身に染みる夜。Nは部屋に戻り、静かに湯を沸かした。
街は華やかなイルミネーションに浮かれているが、Nが求めているのはそんな明るさではない。もっと根源的で、静かな熱だ。
封を開けると、深く香ばしい「薪」のような薫りがふわりと立ち上がった。
それは、どこか懐かしい、山小屋の暖炉や静かな夜の焚き火を思わせる香りだ。その煙の向こう側に、Nはふと、遠い南の島の霧深い山影を見た。カリブ海に浮かぶドミニカ共和国、ハラバコア。「常春の街」と呼ばれるその場所の景色だ。

ドミニカの朝は、白い霧と共に明ける。
Nは、ハラバコアの石畳の坂道をゆっくりと歩いていた。標高1,000メートルを超えるこの地の空気は、カリブの海風とは違う。ひんやりと湿り気を帯び、苔むした森と濡れた土の匂いが混ざり合っている。
霧の向こうから、ピンクやターコイズブルーに塗られた家々の壁がぼんやりと浮かび上がる。早朝の静けさを破るのは、路地のあちこちから聞こえる生活の音だ。
「コポコポ、シューッ」
それは、この国のどの家庭にもある直火式メーカー、「グレカ(Greca)」が沸き立つ音だ。窓からは、焦がした砂糖と濃厚なコーヒーの香りが漂ってくる。
道ゆく人々が「カフェシート(コーヒーはいかが)?」と笑いかける。彼らが手にするデミタスカップの中身は、驚くほど濃く、漆黒だ。
冷涼な風が吹き抜けるこの「カリブのアルプス」で、人々はこの熱い液体をガソリンのように体に流し込み、一日の熱を作る。
Nが手にしたこの豆は、そんな彼らの飾らない日常と、生きるための熱源の記憶を宿した「選ばれし豆」なのだ。


ハラバコアの農園は、整然としたプランテーションとは趣が異なる。
肥沃な火山性土壌の急斜面に、小規模な農家たちがへばりつくように木を植えている。豊かな雨と水資源を使った「水洗式(ウォッシュド)」で精製される豆は、雑味がなくクリーンだ。だが、それだけではない。
厳しい寒暖差の中で育った豆は、小粒ながら石のように硬く、成分が凝縮されている。そこには、洗練されすぎていない「野生の青味」が色濃く残る。
それは未熟さではない。深い森の草いきれや、湿った土の匂い、あるいはハーブのような鋭さだ。Nはこの「青味」に、美しく整えられた庭園ではなく、鬱蒼とした原生林の息吹を感じていた。

この力強い豆を、どう味わうべきか。その答えは、現地の「グレカ」のように、力強くあるべきだった。
硬く引き締まったハラバコアの豆。そのポテンシャルを解放したのは、「炭火」による深煎りだった。
ガス火の熱風では届かない豆の芯まで、炭火が貫通する。
ハラバコアが持つ「野生の青味」は、炭の熱と混じり合って、香ばしい「ナッツ」や、乾燥した「薪」の香りへと昇華した。
それは、ドミニカの人々が愛する濃厚なコクへのリスペクトであり、日本の冬に合わせた解釈だ。「栗のような甘み」という表現すら超えて、もっと根源的な、「焦がした木の実」のような深い味わいが顔を出す。

Nは、丁寧にドリップした漆黒の液体を口に運んだ。
瞬間、口の中にブワッと広がる重厚な苦味。
「苦い」。だが、それは舌を刺す不快な苦味ではない。
口の中に煙があるような、スモーキーなリッチさ。
目を閉じると、パチパチと薪が弾ける音が聞こえてくるようだ。焚き火の前で、ただ炎を見つめていたあの夜。現代社会のノイズが消え、ただ火と自分だけが存在する深い安らぎ。
喉を通った後に残るのは、ほのかな「青味」のある余韻。
それは、すべてが焼き尽くされた後の静寂の中に、ふとハラバコアの森の風が吹き抜けたような感覚だ。
まるで焚き火の煙の香ばしさを、そのまま液体にして楽しんでいるかのような、深く落ち着いた味わい。
Nはカップを置き、長く息を吐いた。
華やかな酸味や、わかりやすい甘さを求めるトレンドとは真逆を行く、媚びない一杯。けれど、この12月の寒さには、この無骨な温かさが何よりも心地よい。
焚き火で薪が弾ける前で、コーヒーをゆるりと味わう。
そんな贅沢な時間を、この一杯が連れてきてくれる。
旅人Nは思う。今年の冬は、この煙の匂いと共に、静かに一年を振り返ろうと。
西原珈琲店にて、12月限定の「ドミニカ ハラバコア 〜炭火深煎り〜」をぜひお楽しみください。
口いっぱいに広がる香ばしさと、野性味あふれる余韻は、寒い冬の夜、あなたを静かな焚き火のそばへと誘います。
| 項目 | 詳細 |
| 生産国 | ドミニカ共和国(ハラバコア地区) |
| エリア | 中央山脈 “カリブのアルプス” |
| 標高 | 800m ~ 1,500m |
| 精選 | ウォッシュド(水洗式) |
| 焙煎 | 炭火焙煎(深煎り) |
風味バランス
| 苦味 | 酸味 | コク | 甘味 | 焙煎 |
| ★★★ | ★☆☆ | ★★★ | ★☆☆ | ★★★ |
フレーバーノート: 薪、炭、ローストナッツ、野生の青味、リッチな苦味
求人情報(募集期限:2025年12月28日まで)
西原珈琲が東京で生まれます。東京1号店となる日本橋浜町店にてオープンメンバーとして参加しませんか?
炭火焼焙煎の本格珈琲と寛ぎのカフェ空間を提供する西原珈琲店、そして、紅茶・パスタ専門店カフェカーベハーネにて、アルバイトを募集いたします。
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Nがサンホセの空港を出た瞬間、湿った熱気が肌を包んだ。それは、熱帯森林の深く、土と生命が混ざり合った匂いだ。車は南東へ、チリポ山塊を目指して進む。窓を開けると、時折、スコールのような雨粒が車内に飛び込み、瞬時に蒸発する。

道沿いには、色鮮やかな壁の家々や、コーヒーの緑の海が広がる。他の国とは違う。ここコスタリカでは、コーヒーは富を集中させる手段ではないのだ。それは、小規模な自作農の独立と、この国の民主主義の基盤を築いた、誇り高き自由の結晶だ。
Nの胸に、その歴史は深く響く。街を離れ、車が山道を登るにつれ、景色は一変する。眼下には雲海が広がり、まるで空に浮かぶ島を登っているようだ。チリポ山塊の高地は、澄んだ冷たい空気で満たされていた。
Nが探すのは過去の栄光ではない。この高地に新しい覚悟を持った者たちがいる。伝統の地を離れ、風味の常識を覆そうとしている開拓者たちだ。Nは、その最前線、ロス・モンへ農園を目指し、旅のギアを入れ直した。

Nはチリポへ向かう道すがら、コスタリカコーヒーが辿った軌跡を思っていた。小規模農家による自主的な栽培は、この国の品質への基盤となった。しかし、近年、厳しい環境規制と高水準の人件費という「試練」が、農家にのしかかっている。
「単に高品質なだけでは生き残れない。革新が必要だ」―Nは、コスタリカコーヒー農家の声を聞いたことがある。
革新とは、精製施設への投資であり、新しい品種への挑戦であり、そして「リスクを恐れない選択」だ。伝統的な道を離れ、新しい価値観を生み出す者こそが、この国のコーヒーの未来を握っている。Nは、このダイナミズムこそが、コスタリカのコーヒーに他国にはない「優雅さ」と「美しさ」を与えているのだと感じた。
Nは、標高1,750メートルを超える高地に、ロス・モンへ農園を見つけた。その農園は、火山性土壌の赤土に囲まれ、まるで静かに息を潜めているようだ。
ここで働くのは、農園主ヘラルド氏と彼の家族、モンへ・ファミリーだけだ。彼らは外部の労働者を雇わず、すべてを自分たちの手で完結させている。
Nは農園主ヘラルド氏に尋ねた。
「なぜ、この家族経営にこだわっているのですか? 収穫は大変でしょう。」
ヘラルド氏は、誇らしげに笑顔を返した。
「私たちは、コーヒーの品質に『自分たちの責任』を持ちたいのです。外部の人に任せるのではなく、家族の目で一粒一粒の熟度を見極める。特に、このナチュラル精製(非水洗式)では、それが命です。」
モンへ・ファミリーが選んだのは、コスタリカの伝統に真っ向から挑む製法だった。水を使わず果肉を付けたまま乾燥させるナチュラル精製は、風味の複雑性を最大化する反面、ピッキングにわずかなミスがあるだけで、品質が崩壊するリスクを伴う。
Nは頷き、続けた。
「つまり、このやり方は、コスト削減ではなく、品質を保証するための覚悟なのですね。」
「その通りです。そして、チリポの高標高がもたらす冷涼な気候が、私たちの味を決定づけるのです。ゆっくりと時間をかけて乾燥させることで、従来のナチュラルが持つ果実味を超え、ベリーとハニーが溶け合い、クリーンで優雅な甘さを放つ、別次元の味わいになるのです。」
Nは直感した。これは、単なる流行ではない、甘みの革命だ。モンへ・ファミリーは、自分たちの手でコスタリカコーヒーの新しいフロンティアを切り開いていた。

モンへ・ファミリーの革新は、熱意だけでは終わらない。彼らは、マレスピ農協の専門家と連携し、土壌分析に基づいた科学的な施肥を実行していた。この精密農業が、収穫前のコーヒーチェリーに極限まで糖分とコクを蓄えさせる。
Nは、コスタリカ、マレスピ農協の農学担当者と交わした言葉を思い出す。
「土壌のデータに基づいて、木の栄養バランスを最適化します。そうすることで、高標高のポテンシャルを最大限に引き出し、チェリー本来の甘さを加工の前に保証できるのです。」
さらに、家族経営の最大の強みである献身的なピッキング(収穫)が、品質の均一性を保証する。ナチュラル精製のリスクである、過剰な発酵によるネガティブな臭いを徹底的に排除するのだ。
その結果が、Nが味わった風味だった。
「香り高く、甘い赤ワインの香りが余韻に。酸味はまるでアルコールのように優雅だが、舌に刺さらない。バランスも良く、飲みやすい」
それは、ただの天然の発酵ではない。科学的な管理と家族の熱意が、ワイニーなニュアンスという個性を持ちながら、クリーンで優雅という両立を達成した、コスタリカの革新の結晶だった。Nは、このロットの焙煎度は少し浅い方が、この優雅な風味を最大限に活かせるだろう、とひとりごちた。

カッピングルームを後にしたNは、深い静寂の中にいた。モンへ・ファミリーがチリポという新しい土地で成し遂げたことは、コスタリカの歴史が育んできた小規模農家の独立の精神が、現代において見事に花開いた証だった。彼らの挑戦は、リスクを恐れず、自らの手で未来を掴む、まさしく「覚悟の物語」だ。
Nは、自らの旅の意味を再認識した。自分がこの極上のハニーとベリーの風味を味わい、「ゆったりと心地よい」時間を過ごせるのは、彼らの熱い革新と献身があるからだ。
旅人Nは、この家族の物語と、コスタリカのダイナミックな歴史の流れを、決して一時の流行で終わらせてはいけないと強く感じた。
「この宝を、世界に届ける。彼らの覚悟に、私の旅を捧げよう。」
Nは、自らの旅の終着点ではなく、新しいフロンティアへの出発点を見出したのだった。
西原珈琲店にて、コスタリカ・チリポエリア「ロス・モンへ農園」のナチュラルロットをぜひお楽しみください。ワイニーなニュアンスを持ちながら、クリーンで優雅なこの一杯に、家族の熱意とコスタリカの革新の歴史を感じていただければ幸いです。
| 項目 | 詳細 |
| 生産国 | コスタリカ |
| エリア | チリポ(Chirripó) |
| 標高 | 1,750〜1,800m |
| 品種 | カツアイ |
| 精選 | ナチュラル(非水洗式) |
風味バランス
| 苦味 | 酸味 | コク | 甘味 | 焙煎 |
| ★☆☆ | ★★☆ | ★★★ | ★★★ | ★☆☆ |
フレーバーノート: 赤ワイン、ハチミツ、ベリー、優雅な酸味
毎週火曜日、ナイロビ・コーヒー・エクスチェンジ(NCE)の会場は、世界中のバイヤーが集まる国際的な「コーヒー・バザール」と化す。空気は生豆の土っぽい香りと、一攫千金を狙う興奮の熱気で重い。
ダブルエー(AA)グレードのロットが厳しく審査され、叫び声が飛び交う。「このニエリの豆、クリア酸味が抜群だ!」「SL28のベリーノート、最高値だ!」国際的なバイヤーたちがカタログを睨み、価格の宝を狙う。
Nは、この賑わいに懐かしさと新鮮さを同時に感じる。かつて早朝から深夜まで体を酷使し、独立の道を、人と出会い、自分の足で切り開いてきた過去があるからだ。Nにとって、コーヒーの世界もまた、その闘いと冒険の続きだった。
Nはポケットから古びた地図を取り出す。植民地時代のメモが残るその紙片が、ニエリのギチャタイニ・ファクトリーへ導く鍵だ。Nはバザールの喧騒を後にし、失われた宝を探すような、胸躍るロードへ—ケニア山の麓を目指す。
会場を歩きながら、Nはバザールのリズムに耳を澄ませた。1930年代に始まったオークションは、ケニアコーヒーの心臓部だ。
1890年代に英国がアラビカ種を持ち込み、独立後の1963年にアフリカ人農家に土地が分配され、協同組合が花開くまでの歴史が、この活気に詰まっている。
Nは一人の老バイヤーに尋ねた。「このバザール、どんな秘密があるんですか?」
老バイヤーは目を細めた。「公開入札の興奮さ。品質で価格が決まる—SL28のベリー酸味は高値をつける。だが、問題は中間マージンの迷路だ。農家への支払いが数ヶ月遅れることもある。」
Nは、地図の端のメモを思い浮かべた。1960年代のコーヒーベリー病(CBD)の危機。嵐のような大流行でSL品種が苦しんだが、研究者たちはルイル11やバティアンのような耐病性品種を生み出し、風味という宝箱を守った。
バザールは、公正な価格発見というケニアの誇り。だが、遅延のささやきは、新たな道—真の隠れ家—をNに囁く。Nは車をニエリの山道へと走らせた。

ケニア山国立公園の影が迫るニエリの谷へ。標高1,600メートル、火山性土壌の赤い大地が広がる。
ギチャタイニ・ファクトリーで、ギカンダ生産者組合のメンバーがNを迎える。900人以上の小規模農家が集うこの協同組合は、フェアトレードの旗を掲げ、倫理基準(18歳未満の雇用禁止、ハラスメントの禁止など)を徹底し、未来を耕す。
「ようこそ、宝の谷へ。」若い農家の代表、ジョセフが笑顔で言う。「ここはダイレクトトレード(DT)の隠れ家だよ。バイヤーと直接話せるから、プレミアム価格が農家に直撃する。トレーサビリティも完璧さ。」
Nは頷き、土を踏んだ。火山灰のミネラルが豆にクリアな酸味を、昼夜の寒暖差がベリーの輝きを宿す。組合は学校や医療を支え、気候変動にも立ち向かう。
Nの心は揺れた。きつい仕事から独立し、旅人として道を切り開いた昔の自分と、バイヤーと直接繋がり、未来を掴む農家たちの姿が重なった。バザールの迷路から脱出し、ここで始まる新たな宝探し—品質向上の喜びと、農家の絆こそがコーヒーの本当の価値だ。

ジョセフが農園を案内する。「SL28とSL34—ケニアの伝統宝だ。ブラックカレントのような鮮やかな酸味、トロピカルな深みよ。病気の危機を乗り越え、ルイル11とバティアンが救った—病気に強く、シトラス酸味を保ちながら収量を安定させる新宝さ。」
Nはワクワクした。「これで風味を守るの?」
「そうさ、ダブルウォッシュドの冒険でね。」ジョセフはファクトリーへNを連れていく。
完熟チェリーを手摘みし、果肉を剥がす。12〜24時間の発酵でミューシレージを分解し、水路で密度選別。さらにソーキング(水に浸漬)でクリーンに磨き、最後にアフリカンベッドで7〜10日乾燥させる。
Nは豆をかき混ぜるのを手伝い、土の香りと水の音に包まれた。この工程が、雑味ゼロのクリアな酸味を生むのだ。オークションの匿名ロットから、ダイレクトトレードによるトレース可能な宝へ
—品質の秘密が、この谷で明かされる。
Nは、きつい試練を乗り越え、道を見つけたジョセフたちの情熱に胸が熱くなった。このダイレクトトレードの絆こそが、Nの旅の灯火のように輝いていた。

カッピングルームの柔らかな光の中、Nは一杯を口に運んだ。
心地よい酸味の余韻が残り、コクもしっかりと。木の葉と土の香りが長く続く。それは、バザールの喧騒から谷の静かな勝利へ導く、宝のような味わいだった。
カップ・オブ・エクセレンス2023年で8位(92.5点)を獲得した輝きが、この一杯の力を証明している。Nはカップを置き、微笑んだ。
オークションの賑わい、農家の絆、ケニア山の恵み—すべてがこの一杯に繋がる。旅人Nは、この宝を世界に届けることを誓う。
この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ケニア・ニエリ県ギチャタイニの「ギチャタイニ・ウォッシュド」をぜひお楽しみください。コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。
※本記事は、歴史と特徴を基に創作されたフィクションです。
商品データと風味
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 生産国 | ケニア |
| エリア | ニエリ県 ギチャタイニ |
| 標高 | 1,600〜1,900m |
| 品種 | ルイル11、SL28、SL34、バティアン |
| 精選 | ウォッシュド(ダブルウォッシュド) |
—-風味バランス—-
苦味 ★★☆
酸味 ★★☆
コク ★★★
甘味 ★★☆
焙煎 ★★☆
フレーバー:木の葉、土
Nは、ペルーのCajamarcaの霧深い山道を歩いていた。手に握るのは、1968年の革命の年に書かれた古い地図だ。紙の端は擦り切れ、インクで書かれたメモが薄く残っている。
「Santuario—聖なる場所」
と書かれた一文に導かれ、San Ignacioの谷にたどり着いた。朝陽がアンデス山脈の斜面を照らし、グアノの香りを帯びた火山土壌が足元で柔らかく響く。
目の前に広がる小さな農園では、コーヒーの木々がバナナの木陰に守られ、赤いチェリーが朝露に輝いている。
「ようこそ、私たちの谷へ。」
農家のマリアが笑顔で迎えた。彼女はAPROCASSI協同組合のメンバーだ。600人以上の零細農家が集まり、この谷で未来を育てている。
「この地図、どこで見つけたの?」
マリアが地図を覗き込みながら聞いた。
Nは、革命の遺産が息づくこの場所で、冒険の始まりを感じた。

Nは地図を広げ、マリアに尋ねた。
「この谷のコーヒーは、どんな歴史があるの?」
マリアは目を細め、遠くの山並みを指さした。
「18世紀、フランス人宣教師がアラビカ種を持ち込んだのが始まりよ。19世紀には、『黄金の豆』として輸出が盛んになり、国を支えたわ。」
しかし、1968年の革命がすべてを変えた。大農園は解体され、土地は小さな農家に分けられた。平均5エーカーの畑で、農家たちは新しい夢を植えた。
「内戦の傷跡が残る中、1980年代から協同組合が生まれ、スペシャルティコーヒーへの道が開かれたの。」
マリアの声に、誇りがこもっていた。
Nは、谷の風に吹かれながら、革命の種が今も芽吹いていると感じた。

農園訪問の前、Nはサン・イグナシオの小さな町を歩いた。石畳の細い通りは、色鮮やかなアドビの家々が連なる—アドビとは、日干しレンガでできた伝統的な建物で、土の温もりが感じられる。
市場では、マンゴーやパパイヤの甘い香りが漂い、広場で子供たちが笑い合う。路地を曲がると、老人が木陰で「ティコ」をすすっていた—ティコとは、小さなカップに入れたエスプレッソ風の濃いコーヒーで、地元の人々の日常の活力源だ。Nは、その素朴な一杯に、谷のコーヒーの源流を感じた。
屋台の女性が、元気よく呼びかける。「タマーレス!新鮮よ!」タマーレスとは、トウモロコシの粉を練った生地を具材と混ぜ、トウモロコシの葉に包んで蒸した伝統食だ。Nは一つ手に取り、支払うと、女性が「アンデスの味を味わってね!」と明るく言った。
彼女の顔は日焼けし、目尻に笑いジワが刻まれ、谷の厳しい生活を物語るが、声は温かく、客を家族のように迎える雰囲気だ。Nはベンチに腰を下ろし、タマーレスをかじった。熱々の蒸気が立ち上り、トウモロコシの優しい甘さとスパイスのピリッとした刺激が広がる。
街の喧騒—鶏の鳴き声、バイクのエンジン音、子供の笑い—が、革命の落書きが残る壁とともに、町の鼓動を伝える。このコントラストが、静かな谷の農園と繋がり、Nの心に深い印象を残した。
路地裏で、壁に残る革命の落書きを見つけた。色褪せた「Tierra y Libertad」(土地と自由)の文字。この町の鼓動は、1968年の革命のエコーだ。農家たちが土地を取り戻し、コーヒーの木を植えたように、この町もまた、過去と未来を繋ぐ生き物だと感じた。Nは、市場の喧騒と静かな谷のコントラストに、聖なる場所の息吹を見た。
San IgnacioとJaenの高地、標高1,450メートル。火山性土壌がミネラルを蓄え、アマゾン川の源流近くの熱帯雨林気候が豆を育む。昼の暖かさと夜の冷気が、チェリーをゆっくり熟成させ、深い味わいを宿す。
「この土、グアノで養われているのよ。海鳥の糞から作られた肥料で、土を豊かにするわ。」
マリアが土を手にすくい、Nに差し出した。
バナナやアボカドのシェードツリーが土壌を守り、生物多様性に満ちたこの谷は、気候変動の干ばつやさび病に立ち向かいながら、持続可能な未来を築いている。APROCASSIの農家たちは、女性農家が3割を占め、子供たちの学校を支え、森を再生する。
「私たちは、この聖なる場所を、みんなで守っているの。」
マリアの言葉に、谷の力が響いた。
Nは木に近づき、マリアに尋ねた。
「Santuarioのコーヒーは、どんな品種なの?」
マリアは木の葉を撫で、微笑んだ。
「Typicaのナッツのような甘さ、Bourbonのフルーティーな深み、Caturraの明るい酸味よ。60%以上が伝統品種で、谷の物語を語るわ。CatimorやCastilloはさび病に強く、未来を守る力を持つ。」
Nは、品種の多様性がこのコーヒーの魂だと感じた。
マリアが続けた。
「Washedプロセスが、その魂をクリーンに引き出すの。」
完熟チェリーを摘み、果肉を剥がし、20-36時間発酵させてミューシレージを分解。水で丁寧に洗い、アフリカンベッドで10-20日ゆっくり乾燥させる。
Nは、農家が豆をかき混ぜる姿を見た。
「まるで、谷の秘密を解き明かす鍵ね。」
マリアが笑った。このプロセスが、雑味のないクリーンな風味を生む。
カッピングルームで、Nは一杯を手に取った。
香りはベリーとオレンジ、雨後の土の清々しさ。飲むと、しっかりした苦味がまず広がるが、渋みやえぐみは一切ない。
スムースで抵抗なく、酸味がベリー系の甘みと心地よく踊る。甘さはくどくなく、舌の上でまろやかな旨味となって転がる。
飲んだ後は、まるでそれまでの味のダンスがなかったかのように、優しいビターが静かに残る。そしてまた、ダンスの輝きを楽しむために飲みたくなる。
SCAA 2010年の1位、Qグレード83.25点の評価が、この豆の輝きを証明する。Nはカップを置き、微笑んだ。革命の種、農家の情熱、聖なる谷の土—すべてがこの一杯に繋がる。サン・イグナシオの街角で感じた鼓動が、カップの中で響き合う。自分は旅人として、このダンスを世界に届けるのだ。
この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。
※本記事は、ペルー・Cajamarca県San Ignacioの「Santuario」の歴史と特徴を基に創作されたフィクションです。コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。
—-風味バランス—-
苦味 ★★★
酸味 ★★☆
コク ★★★
甘味 ★★☆
焙煎 ★★☆
フレーバー:ベリー、オレンジ、雨後の土
農園データ
| 生産国 | ペルー |
| 標高 | 1,450〜1,700m |
| 品種 | ティピカ、カツーラ、カツアイ、カチモール、カスティージョ、ブルボン |
| 精選 | ウォッシュド |
農園データ