その一杯がピューマを救う〜グアテマラコーヒー(2022年9月)

中米のコーヒーキング、グアテマラ

 さて、今月のコーヒーは中米グアテマラからです。グアテマラは、太平洋とカリブ海に面する亜熱帯型に位置します。国土の約70%が火山に囲まれた山岳地帯になっています。厳しい寒暖差や豊富な雨量、火山灰の土壌などコーヒー栽培には絶好の条件がそろっており、高い品質のコーヒー豆を生産しています。火山とコーヒーの関係についてはこちらの記事参照

 グアテマラは18世紀中ごろにコーヒーが持ち込まれ、栽培が開始されたといわれています。グアテマラはスペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質コーヒーを生産する主要な産地でもあります。世界最高峰のコーヒー品評会であるカップ・オブ・エクセレンスにも20年以上前から参画しています。コーヒー豆の輸出先はアメリカ・カナダに次いで日本が第3位です。

 グアテマラでは独自の品質等級を設けています。標高が高くなるほど風味も豊かになり高品質とされ、等級は生産地の高度で7等級に分けられ、最高等級は標高1350m以上のSHB(ストリクトリーハードビーン)、1200~1350mはHB(ハードビーン)、以下SH(セミハードビーン)、EPW(エクストラプライムウォッシュド)、PW、EGW、GWとなります。

標高3000メートルのヤマネコを探して

 今月のコーヒーカフェ・ピューマは、SHBグレードのコーヒーです。在来のアラビカ種であるブルボン、カツーラ、ティピカ種のコーヒー豆を、伝統的な水洗式の精選、天日乾燥によって生産された貴重なコーヒーです。

 さて、グアテマラの標高の高い火山の森は、絶滅の危機に瀕するピューマの生息地でもあります。「最強のヤマネコ」とも呼ばれるピューマは、標高3000メートルの高地においても生息することができます。6メートル近いジャンプ力を誇り、獲物を背後から襲います。ピューマの棲むことのできる森は年々減りつつあり、その頭数も減少し続けています。

 カフェ・ピューマの輸出企業であるボルカフェは、自然保護活動の一環として、本コーヒーの売上の一部を、野生ピューマの保護団体であるパンセラ・グアテマラに寄付しています。

このコーヒーを一杯飲むことで、ガテマラの伝統的なコーヒー農家そして、野生のピューマの保護への貢献にも繋がるのです。

保護活動を伝えるボルカフェInstagram

ボルカフェのSDGsステートメント

ずっと口の中に入れていたいコーヒー

 淹れたてのコーヒーからナッツとオレンジの香りが伸びやかに広がります。とてもまろやかに、もぐもぐと味わって飲みたくなる香ばしさに溢れています。

苦味はなく、酸味はキュートな感触で、楽しさを感じることができます。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ナッツ、カカオ、オレンジ

タイサイアムブルームーン〜世界最大のアヘン栽培地がコーヒー木に入れ替わった話

タイ最北端のゴールデントライアングルと呼ばれる一帯は悪名高い世界最大のアヘン栽培地でした。コーヒーの木がその産業を覆した話です。

2022年2月限定コーヒーはからタイより「サイアム ブルームーン」です。

タイの最北端に位置するチェンライ県ドイチャン村のコーヒーです。

チェンライは、ミャンマー、ラオスとの国境沿いにあり、一帯はゴールデントライアングル(黄金の三角地帯)と呼ばれています。

タイとラオスの間を流れるメコン川と、タイとミャンマーの間を流れるルアック川が合流し、3国が国境を接する一帯で、ビューポイントからは、雄大な景色を望むことができます。

このゴールデントライアングルが、かつて、麻薬の原料であるケシの世界最大の生産地出会ったことを知っていますでしょうか?それを知ると、ゴールデン(黄金)の意味は全く異なります。麻薬の密造も行われ、利権争うによる武力衝突などもあり、極めて治安の悪い地域でした。

ケシの栽培は、国境を行き来する、国籍を持たない山岳少数民族が担っていました。その栽培は、焼畑耕作という方法で行われていました。栄養豊富な森を焼き払った地に農地を切り拓き、ケシを栽培し、養分がなくなると、次の森を焼くという伝統的な耕作方法です。

一帯の山は焼畑耕作ではげ山になっていて、「ブラック・マウンテン(黒い山)」と呼ばれていたようです

ケシ栽培による麻薬の流通によって莫大のお金が生まれるものの、実際の栽培を行う少数民族は、貧困の中にあり、また、麻薬使用による中毒症状などの健康被害も深刻でした。

タイ王国政府は、この産業を止めようにも、一体の村民の唯一の収入手段であることから、単純な取り締まりによって解決は不可能でした。

ケシの代わりにコーヒーの木を植えよう

こう提唱したのは、1970年代当時のプミポン国王でした。王国政府が主導し、コーヒーの木の植樹から、栽培方法の指導、流通手段の確立など、地道な産業作りを続けるとともに、学校や診療所の設立など生活インフラも整備することで、ついに1990年代には、タイ国側でのケシ栽培は根絶したのです。

現在は、年間2000tのコーヒーが出荷され、高品質なコーヒーは世界でも評価されています。

麻薬産業による現地住民の貧困問題と、健康被害、インフラ問題が、コーヒーの力によって、解決された世界でも有数の成功事例と言えるでしょう。もちろん、王国政府による資金援助と地域住民、そして支援者による渾身の努力の積み重ねがあった上の成果です。

今回お届けするコーヒーは、チェンライ有数のコーヒー産地として、北部のドイトゥン村、西部のドイチャン村がありますが、今回お届けする「サイアム ブルームーン」は、ドイチャン村産で、こちらも山岳民族であるアカ族やリソー族によって栽培されました。

まだまだ、産業は始まりにあります。この成果が継続していくためには、高品質なコーヒーを現地農家が作ることで適正価格で販売され、地域経済が循環していくことが欠かせません。タイからやってきた、一杯の高品質なコーヒーを飲むことは、タイチャンライの山岳民族の貧困や社会問題解決への一票でもあるのです。

今世の中の大きなトレンドであるSDGsですが、コーヒーとSDGsとの深い繋がりを書いた本があります。ご興味ありましたら是非読んでみてください。「コーヒーで読み解くSDGs(ポプラ社)」

「サイアム ブルームーン」は、その昔、ブッダが一晩泊まったとさせる聖なる泉の水からその名が生まれました。月光が煌びやかに水面に映り、光の柱が浮かび上がるようにみえるパワースポットとされる泉があります。ラマ九世が戴冠式でも使用したとされるこの聖なる水を精選に使用しています。

香りは伸びやかに抜けて、素晴らしいです。

最初、甘酸っぱさが口の中で駆け回ります。

まろやかな風味と伸びやかな香りが良いバランスとなっています。

もう少し、コクが欲しいところですが、バランスはよく、若草の芽吹きのような立春にふさわしい味です。

—-風味バランス—-

苦味 ★★☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘み ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:黒みつ、青草、炭、フローラル