世界で一番新しい国のコーヒー 宣教師とSHOGUN〜東ティモール レテフォホ(2024年5月限定コーヒー)

世界でいちばん新しい国

東ティモール地図

外務省HPより

 インドネシアの東、ティモール島の東部にその国はあります。

人口は 約134万人(2022年)、国土は日本の岩手県ほどの大きさで、地形は山々が連なっています。

東ティモール風景

photo by United Nations Photo CC

その地は、1586年からポルトガルの植民地でした。1974年にインドネシアが東ティモールを支配しました。1999年からの独立運動を経て、様々な激しい争いを経た上に、2002年5月20日に独立しました。

宗教は99%がキリスト教です。インドネシアの90%はイスラム教ですので、住民の背景が異なることがわかります。

カトリック教会とSHOGUN

 東ティモールに最初に訪れたのは、ポルトガルのカトリック教会です。1515年から宣教活動を始めたと言われます。

カトリック教会と言えば、日本の宣教師フランシスコ・ザビエルのイエズス会が有名ですね。ザビエルもポルトガル国王の命を受けて日本にやってきたのです。

カトリック教会や宣教師による東アジアでの布教活動と、宗教の権力が、政治、経済に深く繋がっている様子は、最近話題の真田広之主演のディズニードラマ「SHOGUN」にて、非常に興味深く描かれています。

ザビエルを始めとしたカトリック宣教師達、そして、ポルトガルがなぜ日本の歴史の重要な場面で登場するのか、その一端を感じることができるでしょう。

Screenshot

SHOGUNサイト

話は逸れましたが、そう、東ティモールは誕生してまだ22年の新しい国です。

東ティモールでは、石油産業が中心で、実産業として、コーヒーは唯一の輸出産業であり、国民の4人に1人がコーヒー生産者と言われています。

実は、東ティモールのコーヒー産業には、日本は深い関わりあります。

日本によるコーヒー支援

 2003年、まだ日本のNPO法人が 東ティモール復興のため、コーヒー生産者支援を始めました。

当初35世帯だった農家は、現在約600世帯に増えました。

「品質管理」という概念を伝え、チェリーの選別、乾燥、精選工程にいたるまで、指導を重ねてきました。

長年にわたる努力が実り、高品質コーヒーができるようになりました。

東ティモールコーヒー豆

photo by United Nations Photo CC

※上記掲載の写真は本コーヒー農園とは関係ありません。

 その東ティモールから届けられた「レテフォホ」です。

口当たり柔らかく、優しい酸味、広がる香ばし、落ち着いたコク

口の中で柑橘のほんのりとした酸っぱさとカカオの甘みがふくよかに広がります。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

フレーバー:カカオ、オレンジ、シガー

農園データ

生産国東ティモール
生産地域レテフォホ、ゴウロロ
品種ティピカ
標高1,500m
精製ウォッシュド

ガブリエルが運んだティピカ〜完熟豆の甘味〜ドミニカ シルベストレナチュラルティピカ(2024年4月限定コーヒー)

カブリエルとティピカの苗

 彼の名はガブリエル・ド・クリュー

ガブリエルは大西洋の上を何日も彷徨っていた。

目的地はカリブ海に浮かぶ美しい島、マルティニーク島、

カブリエルは、そこにコーヒーの苗を持ち込むため航海を続けていた。

ベタ凪が何日も続き、ガブリエルの船は大海原に漂流していた。

食料や水もだんだん底を着き始め、せっかく持ち込んだコーヒーの苗も、一つ二つと萎れていき、生きているのは、後一つとなってしまった。

ガブリエルの自身の飲み水も僅かとなり、もはや絶望だけが残っていました。

これまでと思うと、視界に入ったコーヒーの最後の苗木、最後の飲み水の一滴を、ふと、その最後その苗に与えました。

すると、今までの凪が嘘のように風が吹き始め、帆が勢いよく膨らみ、進み始めました。

そして、ガブリエルの視界には、マルティニーク島が現れたのです。

最後の1本のコーヒーの苗とともに上陸しました。そのコーヒーの種はティピカ。さらにこの数年後の1735年、ティピカはドミニカに持ち込まれました。

コロンブスのイスパニョーラ島

 美しい景色を誇るカリブ海の産地、ドミニカ共和国。コロンブスが新世界の発見後、最初の町を建設したイスパニョーラ島。

イスパニョーラ島東部に位置する共和制国家です。小アンティル諸島のドミニカ島にあるドミニカ国と区別するため「共和国」をつけて呼ばれています。

ドミニカでは「野球」が有名です。数多くの野球場があり、プロ野球も6チームあります。
大リーグの有名選手で通算609本塁打のサミー・ソーサは、ドミニカ出身であり英雄です。現在も、大リーガーのおよそ10%がドミニカ出身のようです。

バオルコ山脈が生み出すアロマ

 ドミニカ南西部に位置するバラオナ地方のバオルコ山脈は、石灰岩質の地盤を腐葉土が覆った土壌。山の斜面が雲で覆われることにより年間を通じて、まんべんなく雨を降らせます。

この雲が強い日差しからコーヒーの木を守り、表土に湿りを与え、コーヒーの木は育ちます。カリブ独特の軽い口当たりと柔らかな酸味と甘み、果実感のある香ばしいアロマが特徴です。

農家の小農園で、ほぼ野生(シルベストレ)に近い状態ながらも上質なコーヒーを生産しています。

ハニーナチュラルの熟成

Screenshot

 コーヒーチェリーが完熟した豆を手摘みし、ミューシレージ(粘液質)残して天日乾燥させるハニープロセス(ワイニープロセス)でコーヒー豆になります。

コーヒーチェリーの精選処理ではウォッシュドというチェリーを水洗いして、果肉を除去した状態で乾燥させる方式が主流となっていますが、

この際に、ミューシレージと呼ばれる豆を覆う粘液質部分だけ、残した上で、乾燥させる方式をハニー・ワイニープロセス(パルプドナチュラル)という方法があります。

ハニーやワイニー呼ばれるのは、粘液質の果実の甘みが、豆に浸透することで蜂蜜の風味や熟成したワインのような甘味が出るためと言われています。

熟成された甘味 ラズベリー&チョコレート

 強いラズベリーと、オレンジの甘い香りが鼻を突き抜けていきます。

余韻にはチョコレート。

しっかりとコクが感じられ、酸味や苦みはほとんどありません。

甘ったるさは決してなく、単一ティピカらしく雑味なく、すっきりと。

ハニープロセスでチェリーの甘みが沁み込み、ベリー&チョコの甘味の余韻がとても長く感じられます。

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★

甘味 ★★★

フレーバー:ラズベリー、オレンジ、カカオ

農園データ

生産国ドミニカ
生産地域バラオナ州 バオルコ山脈
品種品種ティピカ
標高800〜1,500m
精製パルプドナチュラル

ケニアのコーヒーはなぜ美味い?〜サファリ(2024年3月限定コーヒー)

ケニアってどこ?

 ケニアは東アフリカに位置する国で、東アフリカでも最も経済の発展しています。
東アフリカの金融中心地である首都ナイロビ、そして東アフリカ最大の港であるモンバサがあります。

ケニア地図

主要産業は農業で、特にコーヒー、紅茶が盛んです。「コーヒー」の始まりは、1893年、スコットランドの伝道師が農園を開拓したことに端を発し、長い歴史を持っています。

ケニアのコーヒーはなぜ美味い

 コーヒーの原種であるケニアのアラビカ種は、標高1,400〜2,000メートルの高地に見られる、火山性土壌で育てられます。

ケニアの平均気温は、19℃くらいで、雨は、一年を通じてほどよく降り、土壌は水はけの良い赤土のロームです。肥沃な赤い火山性土が斜面を厚く覆い、水はけの良い環境を作り出しています。

ほとんど全てのケニアコーヒーは水洗式精製法です。赤く熟した実のみを収穫し、収穫されたコーヒーチェリー(コーヒーの赤い実)は、加工する前に選別され、未熟、加熟、病害のある豆が取り除かれます。そして、加圧して、果肉除去をした後、コーヒー豆を乾燥台の上で天日干しにします。

ケニアコーヒーの生産は、種からコップに注がれるまでシステム的な要網に従っていて、苗床、農園、果肉除去、豆の破砕、格付けと全てが管理されています。

ケニアのサファリ

 本コーヒー「サファリ」は、毎年1万ロット以上のケニアコーヒーを鑑定する現地の専門家が、カップ評価をして厳選したコーヒーです。絶妙なバランスで産み出される、力強くも鮮やかなカップ品質です。

オレンジが突き抜ける

 カップに近づけた瞬間、シトラスの香り高さが鼻を伸びやかに突き抜けていきます。

口当たりはとても柔らかくなめらか。しっかりとコクも感じます。

甘味、酸味と全体バランスも良いです。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

フレーバー:オレンジ、木の皮、ナッツ

農園データ

生産国ケニア
生産地域キリンヤガ地区、キアンブ地区、ニエリ地区、ゴンゴマ地区、ケリチョ地区
品種SL28、SL34
標高1,750〜1,900m
精製ウォッシュド(水洗)

メキシコのほうじ茶〜メキシコ クステペックSHG(2024年2月)

メキシコ、4大コーヒー生産地

 

 

 今回はメキシコのコーヒーです。メキシコのコーヒー生産は、実は、ブラジル、コロンビアに次ぐ中南米第3位の規模。生産は南部に集中しており、下の地図で囲った場所が主要生産地となっています。地図を見てみると、メキシコ南部から、ガテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカと、コーヒーの主要生産国が続いています。ちょうど、コーヒーベルトにあることに加え、火山灰豊富な山脈が続いていることもあると思います。

 主要生産地は、

チアパス州のタパチュラ

オアハカ州のオアハカ

プエブラ州のプエブラ

ベラクルス州のコアテペック

となっています。今回は、最南にあるガテマラと接するチアパス州です。

メキシコのコーヒー等級

メキシコではコーヒーの等級を以下の表にあるように、生産地の標高で分別しています。

SHGSTRIETHY HIGH GROWN/
ストリクトリー・ハイ・グロウン
標高約1700m以上
HGHIGH GROWN/
ハイ・グロウン
標高約1000m以上1700m未満
SDSTANDARD/
スタンダード
標高約1000m未満

今回のコーヒーも最高等級のSHGです。

ほうじ茶の香り ふわふわと

 ほうじ茶の香ばしさがほんのりと漂う。酸味しっかりと舌を刺激。重心は弱めで、柔らかくふわふわと、口当たりはフルーツティーのよう。春がふくよかにやってくる。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:ほうじ茶、レモン、炭

農園データ

生産国メキシコ
生産地域チアパス州
品種等級:SHG ストリクトリー・ハイ・グロウン

クチュマタネス山の風が運ぶ春の予感〜グァテマラ ウエウエテナンゴ トドサンテリタ(2024年1月)

新年初のコーヒーはグァテマラから

 2024年あけましておめでとうございます。本年も何卒よろしくお願い致します。なお、能登半島で発生した大地震により甚大な被害が発生し、犠牲となった方に心よりお悔やみを申し上げますとともに、被災された方々がいち早く日常に戻ることをお祈りしております。

本年最初のコーヒーはグァテマラ共和国より、ウエウエテナテンゴです。

 グアテマラは、太平洋とカリブ海に面する亜熱帯型に位置します。国土の約70%が火山に囲まれた山岳地帯になっています。厳しい寒暖差や豊富な雨量、火山灰の土壌などコーヒー栽培には絶好の条件がそろっており、高い品質のコーヒー豆を生産しています。火山とコーヒーの関係についてはこちらの記事参照

グアテマラは18世紀中ごろにコーヒーが持ち込まれ、栽培が開始されたといわれています。グアテマラはスペシャルティコーヒーと呼ばれる高品質コーヒーを生産する主要な産地でもあります。世界最高峰のコーヒー品評会であるカップ・オブ・エクセレンスにも20年以上前から参画しています。コーヒー豆の輸出先はアメリカ・カナダに次いで日本が第3位です。

グアテマラでは独自の品質等級を設けています。標高が高くなるほど風味も豊かになり高品質とされ、等級は生産地の高度で7等級に分けられ、最高等級は標高1350m以上のSHB(ストリクトリーハードビーン)、1200~1350mはHB(ハードビーン)、以下SH(セミハードビーン)、EPW(エクストラプライムウォッシュド)、PW、EGW、GWとなります。

なお、今回のコーヒーも最高等級のSHBです。

クチュマタネス山地の風とコーヒー

 グァテマラの中でも良質の豆が生産されることで有名なウエウエテナンゴ地区は、グァテマラ北西を横断するクチュマタネス山地にあり、最大標高 4,000mの石灰岩山周辺にて、1870年からコーヒー栽培が始まっています。

グァテマラのコーヒー生産地域としては標高が最も高い地域に位置しており、クチュマタネス山地から吹き下ろされる冷たい風と、メキシコのテウアンテペック平原から吹き付ける乾燥した風のおかげで、2,000m近い標高があるにもかかわらず、霜害から守られ良質のコーヒー豆が栽培される地域となっています。寒暖の差が出来る高い標高と肥沃な台地は、まさにコーヒー栽培に適しているのです。

本コーヒーの生産農協である、トドサンテリタ農協では、収穫されたコーヒーを24時間自然発酵させた後に水洗、その後パティオで48時間〜60時間かけて乾燥させた伝統的なウォッシュドを採用しています。

専門チームによる土壌保全や浸食防止のための土地の段々畑化、剪定、有機堆肥を中心とした施肥と適切な散布を行うとともに、シャロームと呼ばれる木の導入によるシェードマネジメントを行うことで、コーヒーの品質向上を図っています。

梅が春を連れてくる

 コーヒーを蒸らす瞬間から、梅の甘酸っぱい香りが立ち上りました。口に含むと、舌に残らないクリーンな酸味が心地よく、控えめな甘味と相まってとてもバランスが良いです。飲み干した後の余韻には、ふたたび梅が漂い春の訪れを予感してくれるかのようです。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:梅、濡れた木、スモーク

農園データ

生産国ガテマラ
生産地域ウエウエテナンゴ県
生産高度1,350〜1,650m
精選方法ウォッシュド
品種規格:SHB EP
カツーラ(65%)、ブルボン、マルセレサ、ティピカ

華やかに過ぎゆくイヤーエンドコーヒー〜パプアニューギニア MORITA(2023年12月)

パプアニューギニアの農業とコーヒーふりかえり

 2023年も残すことあと僅かとなりました。今年最後となる限定コーヒーのご紹介となります。パプアニューギニア、イースタンハイランド州から『MORITA』です。思えば、今年の最初のコーヒーもパプアニューギニアの逸品でした。

 パプアニューギニアは太平洋の島国です。日本からはるか南に、オーストラリアの北の赤道付近にあります。

もともとは、ニューギニア島という世界で2番目に大きな島があり、その島の東半分がパプアニューギニアで、西半分はインドネシアとなっています。

パプアニューギニアは、世界で最も初期に、農業を始めたとも言われています。その証拠となっているのが世界遺産に登録されている「クックの初期農耕遺跡」です。

パプアニューギニア南部の海抜1500m地点の湿地帯にある、ニューギニア島最古の農耕地であり、発掘調査では、少なくとも7000年前から耕作が行われてきたことが判明しています。

タロイモやヤムイモなどの生産活動が、開始以来一度も途絶えていない場所でもあります。約6500年前に植物採集が農業へと変わったこの場所では、初めは単なる盛り土をして耕作していました。

しかし、やがて木製の道具で溝を掘って湿地を干拓し、4000年前にはバナナの栽培も始まったことが考古学的に証明されています。これほどの長期にわたり、独自の農業の発展や農法の変化について考古学的な裏付けのある場所は、世界にも類がないのです。

写真は世界遺産公式サイトの記事より。

精霊が降りたつ農園

 パプアニューギニアのコーヒーの歴史は浅く、1930年代にヨーロッパ人の宣教師によって、ジャマイカの有名なコーヒー品種である、「ブルーマウンテン」の苗木が移植されたことが本格的なコーヒー栽培のきっかけとなっています。

年間生産量の85%以上を零細農家が占めており、そのほとんどが標高1,500mを越える高地でアラビカを栽培しています。

そして、精霊の名前が由来となり名付けられたバロイダ農園。その中でも最も標高が高いエリアを 「MORITAエリア」と呼びます。

 農園主の名前は、ベン・コルブラン氏、1963年に栽培を始めてから少しずつ農園を広げていきました。1997年からは、ご子息のニコル氏が経営を引き継ぎ、地元の小農家と連携し、適正なロット管理を行い、手作業によるチェリー選別と高度な生産プロセスを通じて、世界でもトップレベルのコーヒーを届けています。

コーヒーが華やぐ

 レモングラスの滋味な香りと、フローラルが相まって、とても華やかな印象です。酸味もしっかりと感じられますが、舌に残らずコクを感じさせてくれる大変バランスの良い仕上がりです。飲み口は柔らかなく、抵抗なく最後の一口まで楽しむことができます。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:レモングラス、フローラル、ウッド

農園データ

生産国パプアニューギニア
生産地域イースタンハイランド州
生産高度1,700m
精選方法ウォッシュド
品種アルーシャ

羊飼カルディと魔法の実〜エチオピア イルガチェフ コンガG1(2023年11月)

羊飼いカルディと魔法の実

 西暦850年の話である。エチオピアにカルディという名の羊飼いの青年がいた。もうすぐで日が暮れそうな時間、まだ太陽は低い位置から草原の先端を照らしている。羊達がのそりと歩きながら草を食んでいるのを、カルディは大きなユーカリの大木の根に腰掛けて、目を薄く開けて眺めていた。

羊達の群れを保ち、餌場に移動させ、オオカミから群れを守る、この羊飼の仕事は代々受け継がれていて、100年も以上も前からずっとカルディの家の仕事として続いているのだ。

自分もまた、その連綿と続く同じ紐の1つの結び目でしかない。そんなことを考えながら日が沈む前のひと時をカルディはまどろんでいた。

ふと、カルディは一頭の老羊が見当たらないことに気づいた。立ち上がって辺りを探していると、急に、叫ぶような大きな音がしたので、音があった方へ目をやると、それまで見たこともない鬱蒼とした低木の間で、迷った老羊が奇声を上げて飛び跳ねているではないか。

カルディは走ってその羊のところへ行くと、羊は実に愉快な様子で跳ねている。そして、羊の足元には見たこともない、黒い実が散乱していた。しまった、毒を食べたか。

急ぎその老羊を群れに戻したが、その後も羊は実に元気に飛び跳ねていて、その姿は威勢の良いことこの上ない。あの実は一体なんなんだ。その夜、群れを柵の中に戻した後も、老羊は倒れることも死ぬこともないどころか、いつまでも寝ないのだ。

カルディもその老羊が毒で倒れないか不安な気持ち半分、神秘に惹かれる気持ち半分、外に出て老羊と一緒にずっと朝まで起きていた。

東の地平から太陽が頭を出し始めた。カルディは一目散に、例の低木のところへ走っていった。そして、老羊が食べた実を見つけると、一つ取って、恐る恐る口に運んでみた。その実はほんのりと甘いが、酸っぱく中には固い種があった。カルディは思い切ってその種まで齧ってみた。うん、毒ではなさそうだ、カルディはひとりごちた。

しばらくすると、カルディは、なんだか体の芯に熱がこもって来るのを感じた。そして、昨晩は一睡も寝てないのに、頭が実にすっきりとして視界もくっきりと鮮やかになるのを感じた。

それ以降、カルディはこの魔法の実に魅せられ、彼の退屈だった羊飼の日常は、大きく変わった。羊達と踊り、歌う刺激的な日々が始まったのだ。

ある時、カルディはこの実を修道院へ持って行った。修道士は、カルディの実の話を聞いて、その実を手に取り、これは禁断の実に違いないと、すぐにそれを修道院の庭にある火鉢の中で全て放り込んだのだ。カルディはあっ、と叫んだ。

すると、驚いたことに、その火の中からはそれまで誰も嗅いだこともない甘く芳醇な香りが流れてきて、しばらくの間、修道院全体をその香りが包んだのだった。修道士達は誰もが、その香りに包まれて自然と笑みが溢れたという。

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 この話は、コーヒー発祥の地エチオピアに伝わる羊飼いカルディのコーヒー発見の伝説を筆者が脚色したものです。エチオピアにはこのようなコーヒー発祥の伝説が幾つもあるのです。

コーヒー発祥の地

 アフリカ大陸北東に位置するエチオピア。首都は標高2,400mのアディスアベバで、エリトリアやジブチ、ソマリア、ケニアを含む周辺地域の形から「アフリカの角」と呼ばれています。人口は約1億1,787万人で、アフリカではナイジェリアに次ぐ人口規模です。オロモ人、アムハラ人、ティグライ人、ソマリ人といった約80の民族からなる多民族国家で、公用語にアムハラ語、オロモ語、英語などが使われています。

コーヒーの原生品種である「アラビカ種」の発祥地と呼ばれており、コーヒーはエチオピアではじめて発見され、アフリカ大陸から世界へ広がっていきました。エチオピア南西部のカファ地方で、世界で初めてアラビカ種が発見されたことから、カファの名がコーヒーの語源になったという説があります。

エチオピア・モカ

 エチオピアと海を挟んだ中東イエメンのコーヒー豆は「モカ」と呼ばれます。この由来は、イエメンの港・モカ港です。かつては、エチオピア産コーヒーは、イエメンのコーヒーと共に、モカ港から輸出されていました。モカの詳しい呼び名としては、エチオピアコーヒーは「エチオピア・モカ」「モカ・ハラー」と呼ばれ、イエメンコーヒーを「モカ・マタリ」と呼ばれています。

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 今回のコーヒーは、エチオピアの原生品種のコーヒーです。標高は実に2,500mにあるイルガチェフ村にその農園があります。村に近いアバヤ湖は、エチオピアが有する名湖の一つです。川、森、湖、そして高い標高、火山灰土壌、という恵まれた条件がイルガチェフのコーヒーを特別なものとしています。

エチオピアのコーヒーはナチュラル精製が主流ですが、イルガチェフェは伝統的な水洗処理、天日乾燥により仕上げられています。その中でも選りすぐられた トップグレードが、今回のコーヒーであるイルガチェフェ・G1です。

口の中でスパークする

 一口飲めば、このコーヒーが他のものと一線を画すものであることがわかります。口の中で炸裂する柑橘の酸味、そしてダークチョコレートの甘味、一気にスパークしたかと思った瞬間、まるで魔法のようにそれは姿を消してしまいます。雑味も渋みも苦味も残さず、しかし、深く、クリーンなコクが余韻として残るのです。

エチオピアのイルガチェフは、当店でもお届けするのは、10年ぶりとなります。是非この機会にご賞味ください。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:グレープフルーツ、ベリー、カカオ

農園データ

生産国エチオピア
生産地域イルガチェフ
生産高度2,500m
精選方法ウォッシュド
品種エチオピア原生種

ボリビアから届いた昭和のJazz喫茶の渋み〜ボリビア ソル・デラ・マニャーナマニャーナ(2023年10月)

ボリビアのコーヒーの成り立ち

 ボリビアのコーヒーについて紹介したいと思います。ボリビアは南米大陸に位置し、国土の30%以上をアンデス山脈が占めています。ボリビアの首都である「ラパス」は、標高が3500mもあり世界一高い首都と呼ばれ有名です。

コーヒー生産地として最も有名なブラジルやペルーに隣接していて、コーヒー栽培に適した地形や気候となっています。

ボリビアのコーヒーの歴史についても触れたいと思います。

19世紀のスペイン植民地時代に入植したスペイン人によって始められました。当初は、首都ラパスの近くで始まりましたが、標高が3000m以上の土地が多く、土壌も痩せていたために、コーヒー栽培はうまくいかなったようです。

その後、栽培をする土地の標高を徐々に下げていき、標高1000~2000mの山の斜面などで栽培されるようになると、コーヒー豆の栽培は安定し、生産量は増加していったようです。

ラパス北東にある、アンデス山脈の北東山嶺ユンガス地方のコパカバーナ農園のコーヒー豆は質の良いものとして輸出されています。当店でも以前コパカバーナ農園のコーヒーをご提供したことがあります。

ラパスから北東、アンデス山脈をすこし下がった先のカラナビ地方、その山脈には肥沃な土壌が広がっており、山肌全体を覆うほどの雲霧がもたらす恵みの雨と相まって、多くの生命を育んでいます。

アナエロビックという名の発酵

 ソル・デラ・マニャーナはスペイン語で朝日を意味する、社会貢献プログラムです。地域の零細農家へ向けて、コーヒー生産のあらゆるプロセス(苗床から始まり、植え付け、収穫、害虫予防、剪定、財務管理など)を7年間かけて指導しています。

コーヒー豆の精製(コーヒーチェリーの果肉から豆に加工するプロセス)において、以前ザンビアのコーヒー記事で紹介したアナエロビック発酵を行っています。

アナエロビック

 コーヒーの精製方法には大きく分けてナチュラルとウォッシュドがあり、その中間と言えるパルプドナチュラル(ハニー)が主流となっていましたが、最近、嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)という手法が採り入れられ始めました。

コーヒーチェリーを酸素が遮断された密閉容器内で発酵させるというもので、酸素を使わない微生物の働きを利用したものです。

発酵酵母の中には、酸素がないところで活動的になる酵母がいて、発酵すると、通常の発酵時とは違った味わいやフレーバーが生まれます。

酸素を嫌がる酵母を活発にするために、空気を抜いて発酵させるやり方を「嫌気性発酵」、今日のアナエロビックファーメンテーションと言います。コーヒーチェリーをタンクや容器などにつめ、空気を抜き、酸素をなくした状態で発酵させるやり方です。

ワインで取り入れてきた手法で、コーヒーではまだまだ前例が少なく冒険的な取り組みです。

昭和のJazz喫茶、あの渋いコーヒー

 繁華街の雑居ビル2階にその喫茶店はあった。外からは全く目立たない。塗装の禿げた階段を上がると暗い木製の扉が見えた。不安げに扉を開いた途端、サクソフォンの甲高い音が耳に飛び込んできた。小さな店内の端には巨大スピーカーが2台括りつけられていて、Jazzの音が縦横無尽に空間を覆いつくし、内臓に響くかのように迫ってきた。

カウンターと小さなテーブル席が2つ、そこにいる数名の客は皆一人で来ているようだ。誰も一言も発さず、目を閉じてただ駆け巡る音に身を任せている。カウンターの片隅に座ると、向かいに座るママにホットコーヒーを頼んだ。愛想よくはいホットコーヒーですねときびきびと立ち上がった。

ホットコーヒー、お待ちどうさま、厚みのある真っ白なカップに入ったコーヒーが目の前に置かれた。口をつけると、少し酸っぱさがあるが、苦くはないな、と思ったら、舌がじんじんする渋さがきた。これは甘くないコーヒーだな、とひとりごちると、どこからか漂ってきたタバコの煙が鼻を通り過ぎた。そうか、ここは昭和のジャズ喫茶だ。

飲んだ瞬間、口回りの酸味に気づきます。苦味はなくまろやかな口当たりです。その後、舌に鉄っぽさが浮き上がってきます。そして、スモーキーな余韻が長く燻らせます。大人のなかなか渋いコーヒーです。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:鉄、青草、黒糖

農園データ

生産国ボリビア
生産地域ラパス、カラナビ
生産高度1,550m
精選方法ウォッシュド アナエロビック発酵
品種カトゥーラ、カツアイ、ブルボン

シェードツリーに守られて〜ドミニカ エバノヴェルデ(2023年9月)

コロンブスのイスパニョーラ島

 美しい景色を誇るカリブ海の産地、ドミニカ共和国。コロンブスが新世界の発見後、最初の町を建設したイスパニョーラ島。

イスパニョーラ島東部に位置する共和制国家です。小アンティル諸島のドミニカ島にあるドミニカ国と区別するため「共和国」をつけて呼ばれています。

ドミニカでは「野球」が有名です。数多くの野球場があり、プロ野球も6チームあります。
大リーグの有名選手で通算609本塁打のサミー・ソーサは、ドミニカ出身であり英雄です。現在も、大リーガーのおよそ10%がドミニカ出身のようです。

 ドミニカでは、ガブリエル・ド・クリューの伝説という、ドミニカのコーヒーの原種であるティピカの苗木がもたらされた物語があります。詳しくは、ドミニカ バラオナAA〜ガブリエルの一滴の水伝説をご覧ください。

シェードツリーに守られたコーヒー

 EBANO VERDE(エバノ ヴェルデ)は、コンスタンサ地方にある品質にこだわる16の小規模農園によって生産されました。農薬の使用を最小限にし、環境保護と土地の保全を目指した伝統的なシェード栽培を行っています。

シェードツリーによる自然が作り出す日陰がコーヒーツリーを高温と乾燥から防いてくれるのです。また、バナナやイモの木などで構成されるシェードツリーは、多様な生物を育み、森林や土壌の生態系を保全してくれるのです。

エバノヴェルデの出荷プロセスをご紹介します。


①成熟したコーヒーチェリーのみをハンドピック
②エコパルピング~洗浄
 (キロ当たり5リットル以下の水量使用)
③天日乾燥3~5日 水分11%
 その後3~4週間保管
④パーチメント除去、色選別
⑤ラボでの徹底した品質管理
 SCAA規準に基づくカッピング

豆をかじったような香ばしさ

しっかりと感じる豆の香ばしさ、苦味や酸味はほとんど感じられませんが、

香り高さと、厚みのあるコクが飲みごたえを作ってくれています。

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:焼き芋、黒糖

農園データ

生産国ドミニカ共和国
生産地域コンスタンサ
生産高度1,800〜2,200m
精選方法ウォッシュド
品種カトゥーラ、カツアイ

アマゾン川と呼ばれるコーヒー〜アマゾナスG1(2023年8月)

アマゾン川と呼ばれた地

 ペルー、アマゾナス県のコーヒーです。「Amazonas」と聞いて、まず浮かぶのはアマゾン川ですね。南米にある世界最大・最長の川です。アマゾン川のスペイン語表記は「Rio Amazonas」で、まさにアマゾン川を抱くという場所です。

ペルーにおけるコーヒーの始まりは、1700年代のスペイン植民地時代です。現在においても当時伝来された在来種ティピカが輸出される品種の70%以上となっています。

さらに、ペルーは世界でも有数のオーガニック認証やフェアトレード認証のコーヒー豆の輸出国でもあります。アマゾナス県はペルー北部アンデス山脈中に位置し、ペルーの高品質コーヒーの重要産地となっています。

ペルーのコーヒーの歴史はこちらの記事(ペルー ベラスコ将軍とはじまりのティピカ)をご覧ください。

レモンの酸味、そこはかとなく

 しっかりと感じる酸味、しかし、その後には舌に刺激が残りません。

酸味と一緒に感じる甘味が果実味を感じさせ、苦味もありません。

ほんのり漂うレモンの香りがさらに夏らしいすっきりさを作り出してくれます。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:レモン、ウッド、青草

農園データ

生産国ペルー
生産地域アマゾナス県
生産高度1,500m
精選方法ウォッシュド
品種ティピカ、カティモール、パチェ