火山と古木の贈り物〜パカマラレッドハニー 2025年8月限定コーヒー (コーヒートラベラーNの手記7)

火山の贈り物と、古木の記憶

Nは、エルサルバドルのケサルテペケ(Quezaltepeque)の霧に包まれた山道を、

ゆっくりと登っていた。

朝の陽光が、San Salvador Volcanoの噴火口、El Boquerónを優しく照らし、

足元の火山灰土壌がシンと音を立てる。

標高1,300メートルを超えるこの斜面で、

Nは一本の古い木に目を留めた。

60年以上前に植えられたRed Bourbonの木だ。

太い幹は風雨に耐え、

葉の間からパカマラ(Pacamara:コーヒー品種)の大きな実が、

朝露をまとって輝いている。

軽く風が吹き、

土のミネラル混じりの新鮮な香りが、

鼻をくすぐった。

この古木は、ただの木じゃないの。私たち家族の絆を象徴しているのよ。

農園主のアニー(Anny Ruth Pimentel)が、

穏やかな笑みを浮かべて語った。

ロマラグロリア農園(Finca Loma La Gloria)は、1990年代後半、

彼女の父Roberto Pimentelから

結婚の贈り物として託された農園だ。

土木エンジニアだった父は、

この火山の麓の土地を娘にプレゼントし、

コーヒーの未来を託した。

内戦の傷跡がまだ生々しい時代に、

それは復興の象徴だった。

Nは、アニーの瞳に映る父の記憶を、

静かに想像した。

歴史の影と、再生の光

エルサルバドルのコーヒーの物語は、

18世紀後半にグアテマラから持ち込まれた

アラビカ種の種子から始まる。

19世紀には「黄金の豆」として国を支え、

輸出が国家の収入源となった。

コーヒーのおかげで、

学校や道が作られ、

人々の生活が豊かになった。

でも、1980年から1992年の内戦で、

多くの農園が荒れ果て、

家族たちは土地を失った。

Nは、遠くの山並みを眺めながら、

そんな暗い影を思った。

しかし、戦後、

政府と国際支援の手で、

コーヒーは再生した。

高品質なスペシャルティコーヒーへシフトし、

ケサルテペケ(Quezaltepeque)のようなコーヒー産地は、

シトラスやフローラルのバランスの取れた風味で、

世界に知られるようになった。

シェードグロウン—木陰で育てる方法—

が主流で、

環境を守りながら豆を育てる。

アニーは父の遺志を継ぎ、

2001年に自園の精製施設を建て、

収穫から精製までを一貫して管理。

地元のコミュニティを雇用し、

教育プログラムを展開する。

土地と人々が、

再び繋がっていく光景だ。

火山の力、土のミネラル

Nは、手で土をすくい上げた。

火山灰の細かな粒子が、

指の間を滑り落ちる。

豊かなミネラル—

カリウム、マグネシウム、鉄分—

が、コーヒー豆に深い味わいを吹き込む。

標高の高いこの場所では、

昼の暖かな陽射しと

夜の冷たい風が、

豆の成熟をゆっくりと進める。

シェードツリーの葉ずれ音が、

周囲に響き、

パカマラ(コーヒー品種:Pacamara)の実は、

火山の恵みをたっぷり吸収して育つ。

古木の根は、土深くまで張り、

1917年の噴火の記憶さえ

乗り越えてきた。

噴火口El Boquerónを遠くに望む

この農園は、

地震のリスクを抱えながらも、

生物多様性に満ちた

El Boquerón国立公園に隣接する。

Nは、青々とした葉の海を眺め、

自然と人の共生を感じた。

火山の力が、

土に命を与え、

豆に独特の明るい酸味を宿す。

古木の品種と、ミューシレージの秘密

パカマラは、エルサルバドルが生んだ

特別なハイブリッド品種だ。

1958年、研究所でPacas(Bourbonの変異)とMaragogypeを交配し、

30年以上の努力で完成した。

大粒で希少、

遺伝が少し不安定だから収量は少ない。

でも、それがプレミアムな価値を生む。

風味は明るい酸味(オレンジ、シトラス)と

甘味(キャラメル、ハニー)、

さらにチョコレートやフローラルのニュアンス。

農園の古木は、

60年以上の歳月が、

味わいに深みを加える。

気候変動の脅威下で、

こうした品種を守る努力が続いている。

精製はレッドハニープロセス。

完熟したチェリーを手で丁寧に摘み、

果肉を除去した後、

ミューシレージ—粘液層—を40-60%残す。

この層に含まれる糖分

(フルクトース、グルコース、ペクチン)が、

乾燥中に豆に染み込み、

甘味と果実味を豊かにする。

パティオで10-20日、

天日でゆっくり乾燥させ、

定期的にかき混ぜて発酵をコントロール。

火山のミネラルが

ミューシレージの成分を活かし、

土の繋がりをカップまで届ける。

Nは、豆の表面に残る甘い粘りを指で触れ、

秘密のプロセスに魅了された。

カップに宿る繋がり

カッピングルームの柔らかな光の中で、

Nは一杯を口に運んだ。

まず、しっかりと苦味が舌を包み、

酸味の刺激がピリッと走る。

青い果実を齧ったような渋さが、

余韻に残る。

ファーストインプレッションは、

屹立した峠のように厳しく感じる。

でも、次にしっかりとしたコクと深みが広がり、

余韻の中に甘みが漂う。

何より、旨味が全体を優しく繋ぐ。

峠の頂上で広がる甘美な景色が、

混ざり合うようだ。

一筋縄ではいかない、

コーヒー通の心を掴む豆だ。

Cup of Excellenceでの過去優勝

(2003年、2008年、89-92点の記録)と

国際レビュー(Coffee Review 92点: スムースでフルーティー)が、

この味を証明する。

Nは、カップを置いて微笑んだ。

古木の贈り物、

家族の継承、

火山の土—

すべてが繋がり、

この一杯に宿る。

自分も旅人として、

この繋がりを世界に届ける。

この物語を、あなたのカップで。

西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。

※本記事は、エルサルバドル、ロマラグロリア農園の「パカマラレッドハニー SHG」の歴史と特徴を基に創作されたフィクションです。コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。

—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:青い果実、ダークチョコレート、濡れた木

生産国エルサルバドル
農園ロマラグロリア農園
標高1,200〜1,700m
品種パカマラ
精選レッドハニー

農園データ

エルサルバドルの黄金地帯に位置するアグアカリエンテ農園:伝統と革新が生む上質なコーヒー〜2024年7月限定コーヒー

エルサルバドルとは?

 エルサルバドルは、中米七カ国の中で最も小さい国で、その面積は九州の約半分と同じくらいです。グアテマラとホンジュラスの間に位置し、火山や湖が点在しています。サトウキビやコーヒーなどの農業と輸出が主な産業となっています。

Googlemapより

「幸せと悲しみの果実」エルサルバドルコーヒーの歴史

 エルサルバドルコーヒーは、その複雑な味わいと豊かな歴史で知られるスペシャルティコーヒーです。しかし、その歴史は決して平坦なものではありませんでした。

19世紀前半にグアテマラから持ち込まれたコーヒーは、エルサルバドル経済の重要な柱となりました。しかし、1930年代の世界恐慌による価格暴落は、貧困にあえぐ農民たちの不満を爆発させ、1932年には大規模な農民蜂起(La Matanza)を引き起こしました。この悲劇的な事件では、約3万人の命が失われたと言われています。

その後、コーヒー生産は衰退しましたが、1970年代以降、ヨーロッパ移民による再興と、「14家族(Catorce Familias)」と呼ばれる寡頭支配層の登場によって再び発展を遂げました。彼らは高品質なコーヒー豆の生産に注力し、エルサルバドルコーヒーを世界中に知らしめました。

しかし、この繁栄の陰には、大きな格差が存在しました。「14家族」は莫大な富を手にし、多くの農地を支配しました。一方、農村部の小規模生産者は、低賃金で劣悪な労働環境に苦しむ労働者となりました。こうした支配層との格差が、1980年代に勃発したエルサルバドル内戦の引き金となりました。

聖職者を中心とした農民解放を掲げる左派ゲリラ「ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)」と、「14家族」の資金援助を受けた右派政府軍との間で争われたこの内戦は、12年間にも及び、約7万5千人の犠牲者を出す悲惨な結果となりました。しかし、1992年に国連の仲介で和平合意が成立し、ようやく長い戦いに終止符が打たれました。

内戦終結後の新たな希望

 内戦終結後、エルサルバドルコーヒー産業は新たな道を歩み始めました。民主主義の確立と農地改革によって、小規模農家もコーヒー生産に参入できるようになり、品質向上のための取り組みも活発化しました。

現在、エルサルバドルコーヒーは、複雑な味わいが楽しめるスペシャルティコーヒーとして世界中で評価されています。

エルサルバドルコーヒーの品種と土壌

 エルサルバドルコーヒーには、ブルボン種、アラビカ種、マラゴジッペ種など様々な品種があります。ブルボン種はエルサルバドルコーヒーの代表的な品種であり、フルーティーな香りとまろやかな酸味が特徴です。近年では、高品質なマラゴジッペ種の栽培も盛んになっています。

エルサルバドルの土壌は、火山灰由来のミネラル豊富な火山性土壌です。この土壌は、コーヒーの木の生育に適しており、良質なコーヒー豆の生産に貢献しています。

アグアカリエンテ農園:伝統と革新の融合

 エルサルバドル西部のアタコ地区に位置するアグアカリエンテ農園は、親子三代続く歴史ある農園です。涼しい平均気温、豊富な降雨量、良質な火山性土壌は、コーヒー栽培に最適な環境を提供しています。

この農園の特徴は、伝統的な水洗処理に加え、農園内に湧き出る冷たいためぐみ豊富な湧き水を利用した発酵処理を行っていること。このユニークな処理方法は、クリアな味わいと上品な酸味を生み出すと言われています。

アグアカリエンテ農園では、収穫されたコーヒー豆を丁寧に選別し、天日乾燥させています。また、最新の設備を導入し、品質管理にも力を入れています。こうした伝統と革新の融合が、高品質なアグアカリエンテコーヒーを生み出すのです。

味について

 暖炉にくべた薪が崩れてカランと鳴るようなまろやかさに包まれます。炭の香りがさらに心身をリラックスさせてくれます。余韻には爽やかな桃の香りが漂います。

—-風味バランス—-

苦味 ★★☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:炭、桃の皮

農園データ

生産国エルサルバドル
標高
品種ブルボン、パカス
精選天日乾燥

エルサルバドルの幸せと悲しみの果実〜2022年8月限定コーヒー

最近のこと

 8月も猛暑が続いています。38度を超えるような日もあり、外を歩くと息苦しさを覚えます。先日、私はインドネシアのジャカルタへ出張しましたが、日中の暑さは、日本と変わらないですが、朝や夕方の時間帯は、むしろ東南アジアのジャカルタの方が涼しいとすら感じました。

 学校は夏休み期間ですが、私の子供の頃、真夏でも外で思いっきり遊ぶ、ということは当たり前でしたが、こんなにも暑くなってしまった今日においては、真夏は室内の涼しいところで過ごす、というのが新たな常識となるのでしょうか。

 さて、8月限定コーヒーはエルサルバドルから、「SHGエルグァモブラックハニー」です。

エルサルバドルとは?

 エルサルバドルは、中米七カ国の中で最も小さい国で、その面積は九州の約半分と同じくらいです。グアテマラとホンジュラスの間に位置し、火山や湖が点在しています。サトウキビやコーヒーなどの農業と輸出が主な産業となっています。

Googlemapより

幸せと悲しみの果実〜コーヒーと内戦

 エルサルバドルのコーヒーは、「幸せと悲しみの果実」と言えるかもしれません。1880年代頃からコーヒーが主要な農作物になりましたが、1930年代の世界恐慌によってコーヒーの価格が暴落し、貧困に喘いだ農民の不満が爆発して、1932年に大規模な農民蜂起(La Matanza)が起こりました。約3万人の農民が亡くなったと言われています。

 その後、コーヒー生産は衰退しましたが、1970年代からヨーロッパ移民がコーヒー生産を再興し「14家族(Catorce Familias)」と呼ばれる寡頭支配層によって発展しました。彼らはコーヒー生産によって大きな富を得て、多くの農地を支配し、農村部の小規模生産者は労働者となりました。

 支配層との格差による不満が引き金となって、エルサルバドル内戦が発生しました。聖職者を中心とした農民解放をうたう左派と「14家族」の資金援助を得た右派が争ったこの内戦は、1992年に国連によって和平合意が成立するまで十年以上続きました。

 内戦がエルサルバドルにもたらした被害は壊滅的でした。12年間におよぶ内戦で約5万5千人が命を失いましたが、この和平協定によって、エルサルバドルのコーヒー産業は新たな道を切り開きました。

 アイーダの挑戦 コーヒーのゴミが宝になる時 ~エルサルバドルカスカラティー

ブラックハニーとは

 エルグァモブラックハニーは、エルサルバドル最西部に位置するアワチャパン県タクバ市にあるエルグアモ農園から届きました。

 コーヒーチェリーの精選処理ではウォッシュドというチェリーを水洗いして、果肉を除去した状態で乾燥させる方式が主流となっていますが、

 この際に、ミューシレージと呼ばれる豆を覆う粘液質部分だけ、残した上で、乾燥させる方式をハニープロセス(パルプドナチュラル)という方法があります。

 ハニーと呼ばれるのは、粘液質の果実の甘みが、豆に浸透することで蜂蜜の風味が出るためと言われています。

 粘液質をどのくらい残すかで豆の見た目が変わり、完全に残すと、黒く、半分くらいだと赤く、薄いと黄色くなるため、ブラックハニー、レッドハニー、イエローハニーと分かれます。

 ミューシレージと呼ばれる粘液質を残した状態でゆっくりと乾燥させます。独特で濃厚な甘みとジューシーさを兼ね備えたコーヒーです。

ザンビアのイエローコーヒー記事

前回のエルサルバドルコーヒーはこちら

味について

 コーヒーを淹れた瞬間から、カップから黒糖とメープルの甘い香りが漂ってきます。

口に入れると甘さと一緒に酸味が飛び込んできますが、それは柔らかく、後に残りません。

香ばしさとコクもしっかり感じられ、後味もすっきりしてとても飲みやすいです。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:黒糖、メープル、檜

エルサルバドル アイーダが選んだコーヒーの未来:2021年12月限定コーヒー

12月限定コーヒーはからエルサルバドル「プラン デ バテア」です。

中米地域の太平洋側に位置するエルサルバドル。

エルサルバドルの多くは火山帯で、国土の標高が高く、雨季と乾季の差がはっきりしているため、コーヒー栽培に適した環境にあります。

今回のコーヒーは、当ホームページでも以前、コーヒー精製時のカスから生まれた茶であるカラカスティーが生まれる物語を紹介しましたトップ生産者のアイーダ・バトル氏によって品質の秀逸さから選ばれた農園となります。

前回のエルサルバドルのコーヒー記事

アイーダの挑戦 コーヒーのゴミが宝になる時 ~エルサルバドルカスカラティー

その香りと風味には奥深い香ばしさがあります。

一方、舌の上をすべる酸味は颯爽として心地よいです。

穏やかな珈琲時間に委ねながら、あの頃の瑞々しい記憶が立ち現れるような。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘み ★☆☆

焙煎 ★☆☆

フレーバー:ベリー、とうもろこし、青草、レモン

エルサルバドル ブラックハニー〜2021年3月限定コーヒー

3月となりました。街の中でちらほらと、早桜が咲くのを見つけました。寒かった冬が終わり、春が到来しました。

陽が沈むのが遅くなり、帰り道の空がいつもより明るいことに気づきます。忙しなく過ぎゆく日々の中で、ふと、移りゆく季節を目の当たりにすると、なんだか嬉しい気持ちがします。

さて、3月限定コーヒーはエルサルバドルから、「ブラックハニー」です。

「ブラックハニー」は、エルサルバドル最西部に位置するアワチャパン県タクバ市にあるエルグアモ農園から届きました。

ブラックハニーとは?

コーヒーチェリーの精選処理ではウォッシュドというチェリーを水洗いして、果肉を除去した状態で乾燥させる方式が主流となっていますが、

この際に、ミューシレージと呼ばれる豆を覆う粘液質部分だけ、残した上で、乾燥させる方式をハニープロセス(パルプドナチュラル)という方法があります。

ハニーと呼ばれるのは、粘液質の果実の甘みが、豆に浸透することで蜂蜜の風味が出るためと言われています。

粘液質をどのくらい残すかで豆の見た目が変わり、完全に残すと、黒く、半分くらいだと赤く、薄いと黄色くなるため、ブラックハニー、レッドハニー、イエローハニーと分かれます。

ミューシレージと呼ばれる粘液質を残した状態でゆっくりと乾燥させます。独特で濃厚な甘みとジューシーさを兼ね備えたコーヒーです。

ザンビアのイエローコーヒー記事

前回のエルサルバドルコーヒーはこちら

口に含んだ瞬間に果実味があふれます。青草のフレーバーが爽やかさを通してくれます。

しっかりとコクもあり、焼き芋の優しい余韻が残ります。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:林檎、青草、焼き芋

アイーダの挑戦 コーヒーのゴミが宝になる時 ~エルサルバドルカスカラティー

皆様、いかがお過ごしでしょうか。不安な世の中のなか、心落ち着かぬ日々かと思いますが、少しでも穏やかに健やかにお過ごし頂けることを心より願っております。

西原珈琲各店も、皆様のひと時の寛ぎのため、精一杯営業し、一杯のコーヒーを通じた安らぎを提供し続けて参りたいと思います。特別にコーヒーチケットもご用意しましたので是非ご利用下さい。

さて、2020年4月の限定コーヒーはエルサルバドルから「ブエノスアイレス農園カスカラティー」です。

今回はこれまで初めてお届けする特別な製法で作られた珍しく、そしてとても美味しいコーヒーです。

皆様は「カスカラティー」というお茶を聞かれたことはありますか?

コーヒーは何で出来ているのか?と聞かれたら、誰もが

コーヒー豆から

と答えると思います。その通り、コーヒーはコーヒーチェリーと呼ばれるコーヒーの木になる実の中の豆(種子)を精選し、それを焙煎し、液体に抽出したものです。

では、コーヒーチェリーの果肉や皮の部分はどうなるのでしょうか?

通常はそのまま廃棄されてしまいます。

でも、果肉をそのまま捨ててしまうのはもったいない。何かに活用はできないのだろうか。

そんなことを思ったことがあります。

エルサルバドルのサンタ・アナ火山を囲む丘陵地にある家族農場でコーヒー栽培をしていた アイーダ・バトルという女性農園主も同じ課題を抱いていました。

アイーダの農園でも、豆を精選した後に残った皮や果肉部分は、ゴミとして廃棄するか、肥料にしたりしていました。

ある日、アイーダが、コーヒー豆を精選後、天日にさらしたままになっていた廃棄部分の近くを歩いたところ、

そこから、強いハイビスカスの香りに包まれました。アイーダは、その瞬間、時が止まったようにその香りに魅了されました。

そして、全くあり得ないアイデアが脳裏に浮かびました。

すると、目の前に広がる惨めな廃棄ゴミの果肉の山が、急に宝のように輝き始めたのです。

アイーダは果肉の皮を拾うと、すぐに自宅に戻り、それをお湯に浸して、味見をしてみました。そして、アイーダは自分のありえないアイデアが、妄想ではなく、確信だと気づきました。

気付くと常連の取引先仲間に、電話を掛け、そのアイデアを熱く語りました。しかし、相手の反応は、ひとしきり笑ってから、

アイーダ、それは素晴らしいアイデアだね、面白いよ、と言った後、何事もなかったように、他の世間話をし始めるのです。全く、そのアイデアが馬鹿げていると思ったのか、アイーダの新しいジョークと思ったようでした。

アイーダの挑戦はその時始まったのです。

それから、10年が経ちました。アイーダのアイデアは今、

カスカラティーと名付けられ、

大手のコーヒーショップでもメニューとして並び、その原料価格も、なんとコーヒー豆の5倍もの値段が付くようになりました。とはいえ、まだまだ市場流通もごく一部でしかありません。

しかし、カスカラティーのサクセスストーリーは、心躍るものがあります。

廃棄するゴミが、なくなり、それが宝となったこと。誰もが価値を見出さない、笑われるような使い道を、想像し、それが人々に伝わるまであきらめることなく、挑戦しつづけるアイーダの精神。

さて、アイーダの物語はこのくらいにして、今月のコーヒーの紹介をさせて頂きます。

アイーダの農園と同じ、エルサルバドルのサンタ・アナ火山丘陵地にある「ブエノスアイレス農園」のコーヒーです。

通常、水洗いで、完熟したチェリーを取り除き、その後、乾燥させながら豆を発酵させていきます。この時に、カスカラティーを投入し、豆に風味を戻していくのです。

カスカラティーをテーブルで味わうだけでなく、コーヒーの精選処理でも、果肉の甘味を豆に戻していく手法としても活用されている事例ですね。

フローラルの甘いフレーバーにスモークが加わり心をリラックスさせてくれるアロマが拡がります。

口に含んだ瞬間、コーヒー豆をそのまま噛み砕いたような、香ばしさが口の中で一気に広がります。

飲み口優しく柔らかく、酸味や苦味も穏やかな一方、コクはとても深く、長居余韻を楽しめます。

厳しい時代にこそ、このようなアイーダの諦めない精神や、今まで想像しなかった価値の発見が生まれるのかもしれません。

本当に貴重なコーヒーです。是非、当店でお楽しみ下さい。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★

焙煎 ★★☆

香り フローラル スモーク

『エルサルバドル サン イシドロ』西原珈琲店8月限定コーヒー


西原珈琲店の世界のコーヒー8月の限定コーヒーは、

『エルサルバドル サン イシドロ』です。

focus

中米エルサルバドル西部サンタアナ火山山麓のアパネカにある「サン イシドロ農園」では、シェードツリーの下で、希少な パカマラ種をわずかに2ヘクタールのみ栽培しています。

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『パカマラ種』はブルボン種の突然変異の「パカス」と「マラゴジッペ」をかけあわせた品種で、エルサルバドル特有の品種 です。

cherry cherry2

マラゴジッペのように大粒ですが、素晴らしい香りをもっており、近年高い評価を得ています。生産量は少なく、希少な品種となっています。

 

 

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さて、豆を見てみましょう。

縦に長く、どっしりと大きな形をしています。

淹れたてのコーヒーからはミツのような甘い香りが漂ってきます。

口に含めば、鮮やかな酸味が一杯に広がります。

苦味も控えめで、さわやかな風味は、暑い夏のホットコーヒーにぴったりです。

ほんのりと甘い香り、ビビッドな酸味、

エルサルバドルからやってきた真夏のコーヒー「サンイシドロ」、

是非ご賞味ください。

 

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★☆☆