アイーダの挑戦 コーヒーのゴミが宝になる時 ~エルサルバドルカスカラティー

皆様、いかがお過ごしでしょうか。不安な世の中のなか、心落ち着かぬ日々かと思いますが、少しでも穏やかに健やかにお過ごし頂けることを心より願っております。

西原珈琲各店も、皆様のひと時の寛ぎのため、精一杯営業し、一杯のコーヒーを通じた安らぎを提供し続けて参りたいと思います。特別にコーヒーチケットもご用意しましたので是非ご利用下さい。

さて、2020年4月の限定コーヒーはエルサルバドルから「ブエノスアイレス農園カスカラティー」です。

今回はこれまで初めてお届けする特別な製法で作られた珍しく、そしてとても美味しいコーヒーです。

皆様は「カスカラティー」というお茶を聞かれたことはありますか?

コーヒーは何で出来ているのか?と聞かれたら、誰もが

コーヒー豆から

と答えると思います。その通り、コーヒーはコーヒーチェリーと呼ばれるコーヒーの木になる実の中の豆(種子)を精選し、それを焙煎し、液体に抽出したものです。

では、コーヒーチェリーの果肉や皮の部分はどうなるのでしょうか?

通常はそのまま廃棄されてしまいます。

でも、果肉をそのまま捨ててしまうのはもったいない。何かに活用はできないのだろうか。

そんなことを思ったことがあります。

エルサルバドルのサンタ・アナ火山を囲む丘陵地にある家族農場でコーヒー栽培をしていた アイーダ・バトルという女性農園主も同じ課題を抱いていました。

アイーダの農園でも、豆を精選した後に残った皮や果肉部分は、ゴミとして廃棄するか、肥料にしたりしていました。

ある日、アイーダが、コーヒー豆を精選後、天日にさらしたままになっていた廃棄部分の近くを歩いたところ、

そこから、強いハイビスカスの香りに包まれました。アイーダは、その瞬間、時が止まったようにその香りに魅了されました。

そして、全くあり得ないアイデアが脳裏に浮かびました。

すると、目の前に広がる惨めな廃棄ゴミの果肉の山が、急に宝のように輝き始めたのです。

アイーダは果肉の皮を拾うと、すぐに自宅に戻り、それをお湯に浸して、味見をしてみました。そして、アイーダは自分のありえないアイデアが、妄想ではなく、確信だと気づきました。

気付くと常連の取引先仲間に、電話を掛け、そのアイデアを熱く語りました。しかし、相手の反応は、ひとしきり笑ってから、

アイーダ、それは素晴らしいアイデアだね、面白いよ、と言った後、何事もなかったように、他の世間話をし始めるのです。全く、そのアイデアが馬鹿げていると思ったのか、アイーダの新しいジョークと思ったようでした。

アイーダの挑戦はその時始まったのです。

それから、10年が経ちました。アイーダのアイデアは今、

カスカラティーと名付けられ、

大手のコーヒーショップでもメニューとして並び、その原料価格も、なんとコーヒー豆の5倍もの値段が付くようになりました。とはいえ、まだまだ市場流通もごく一部でしかありません。

しかし、カスカラティーのサクセスストーリーは、心躍るものがあります。

廃棄するゴミが、なくなり、それが宝となったこと。誰もが価値を見出さない、笑われるような使い道を、想像し、それが人々に伝わるまであきらめることなく、挑戦しつづけるアイーダの精神。

さて、アイーダの物語はこのくらいにして、今月のコーヒーの紹介をさせて頂きます。

アイーダの農園と同じ、エルサルバドルのサンタ・アナ火山丘陵地にある「ブエノスアイレス農園」のコーヒーです。

通常、水洗いで、完熟したチェリーを取り除き、その後、乾燥させながら豆を発酵させていきます。この時に、カスカラティーを投入し、豆に風味を戻していくのです。

カスカラティーをテーブルで味わうだけでなく、コーヒーの精選処理でも、果肉の甘味を豆に戻していく手法としても活用されている事例ですね。

フローラルの甘いフレーバーにスモークが加わり心をリラックスさせてくれるアロマが拡がります。

口に含んだ瞬間、コーヒー豆をそのまま噛み砕いたような、香ばしさが口の中で一気に広がります。

飲み口優しく柔らかく、酸味や苦味も穏やかな一方、コクはとても深く、長居余韻を楽しめます。

厳しい時代にこそ、このようなアイーダの諦めない精神や、今まで想像しなかった価値の発見が生まれるのかもしれません。

本当に貴重なコーヒーです。是非、当店でお楽しみ下さい。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★

焙煎 ★★☆

香り フローラル スモーク