羊飼カルディと魔法の実〜エチオピア イルガチェフ コンガG1(2023年11月)

羊飼いカルディと魔法の実

 西暦850年の話である。エチオピアにカルディという名の羊飼いの青年がいた。もうすぐで日が暮れそうな時間、まだ太陽は低い位置から草原の先端を照らしている。羊達がのそりと歩きながら草を食んでいるのを、カルディは大きなユーカリの大木の根に腰掛けて、目を薄く開けて眺めていた。

羊達の群れを保ち、餌場に移動させ、オオカミから群れを守る、この羊飼の仕事は代々受け継がれていて、100年も以上も前からずっとカルディの家の仕事として続いているのだ。

自分もまた、その連綿と続く同じ紐の1つの結び目でしかない。そんなことを考えながら日が沈む前のひと時をカルディはまどろんでいた。

ふと、カルディは一頭の老羊が見当たらないことに気づいた。立ち上がって辺りを探していると、急に、叫ぶような大きな音がしたので、音があった方へ目をやると、それまで見たこともない鬱蒼とした低木の間で、迷った老羊が奇声を上げて飛び跳ねているではないか。

カルディは走ってその羊のところへ行くと、羊は実に愉快な様子で跳ねている。そして、羊の足元には見たこともない、黒い実が散乱していた。しまった、毒を食べたか。

急ぎその老羊を群れに戻したが、その後も羊は実に元気に飛び跳ねていて、その姿は威勢の良いことこの上ない。あの実は一体なんなんだ。その夜、群れを柵の中に戻した後も、老羊は倒れることも死ぬこともないどころか、いつまでも寝ないのだ。

カルディもその老羊が毒で倒れないか不安な気持ち半分、神秘に惹かれる気持ち半分、外に出て老羊と一緒にずっと朝まで起きていた。

東の地平から太陽が頭を出し始めた。カルディは一目散に、例の低木のところへ走っていった。そして、老羊が食べた実を見つけると、一つ取って、恐る恐る口に運んでみた。その実はほんのりと甘いが、酸っぱく中には固い種があった。カルディは思い切ってその種まで齧ってみた。うん、毒ではなさそうだ、カルディはひとりごちた。

しばらくすると、カルディは、なんだか体の芯に熱がこもって来るのを感じた。そして、昨晩は一睡も寝てないのに、頭が実にすっきりとして視界もくっきりと鮮やかになるのを感じた。

それ以降、カルディはこの魔法の実に魅せられ、彼の退屈だった羊飼の日常は、大きく変わった。羊達と踊り、歌う刺激的な日々が始まったのだ。

ある時、カルディはこの実を修道院へ持って行った。修道士は、カルディの実の話を聞いて、その実を手に取り、これは禁断の実に違いないと、すぐにそれを修道院の庭にある火鉢の中で全て放り込んだのだ。カルディはあっ、と叫んだ。

すると、驚いたことに、その火の中からはそれまで誰も嗅いだこともない甘く芳醇な香りが流れてきて、しばらくの間、修道院全体をその香りが包んだのだった。修道士達は誰もが、その香りに包まれて自然と笑みが溢れたという。

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 この話は、コーヒー発祥の地エチオピアに伝わる羊飼いカルディのコーヒー発見の伝説を筆者が脚色したものです。エチオピアにはこのようなコーヒー発祥の伝説が幾つもあるのです。

コーヒー発祥の地

 アフリカ大陸北東に位置するエチオピア。首都は標高2,400mのアディスアベバで、エリトリアやジブチ、ソマリア、ケニアを含む周辺地域の形から「アフリカの角」と呼ばれています。人口は約1億1,787万人で、アフリカではナイジェリアに次ぐ人口規模です。オロモ人、アムハラ人、ティグライ人、ソマリ人といった約80の民族からなる多民族国家で、公用語にアムハラ語、オロモ語、英語などが使われています。

コーヒーの原生品種である「アラビカ種」の発祥地と呼ばれており、コーヒーはエチオピアではじめて発見され、アフリカ大陸から世界へ広がっていきました。エチオピア南西部のカファ地方で、世界で初めてアラビカ種が発見されたことから、カファの名がコーヒーの語源になったという説があります。

エチオピア・モカ

 エチオピアと海を挟んだ中東イエメンのコーヒー豆は「モカ」と呼ばれます。この由来は、イエメンの港・モカ港です。かつては、エチオピア産コーヒーは、イエメンのコーヒーと共に、モカ港から輸出されていました。モカの詳しい呼び名としては、エチオピアコーヒーは「エチオピア・モカ」「モカ・ハラー」と呼ばれ、イエメンコーヒーを「モカ・マタリ」と呼ばれています。

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 今回のコーヒーは、エチオピアの原生品種のコーヒーです。標高は実に2,500mにあるイルガチェフ村にその農園があります。村に近いアバヤ湖は、エチオピアが有する名湖の一つです。川、森、湖、そして高い標高、火山灰土壌、という恵まれた条件がイルガチェフのコーヒーを特別なものとしています。

エチオピアのコーヒーはナチュラル精製が主流ですが、イルガチェフェは伝統的な水洗処理、天日乾燥により仕上げられています。その中でも選りすぐられた トップグレードが、今回のコーヒーであるイルガチェフェ・G1です。

口の中でスパークする

 一口飲めば、このコーヒーが他のものと一線を画すものであることがわかります。口の中で炸裂する柑橘の酸味、そしてダークチョコレートの甘味、一気にスパークしたかと思った瞬間、まるで魔法のようにそれは姿を消してしまいます。雑味も渋みも苦味も残さず、しかし、深く、クリーンなコクが余韻として残るのです。

エチオピアのイルガチェフは、当店でもお届けするのは、10年ぶりとなります。是非この機会にご賞味ください。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:グレープフルーツ、ベリー、カカオ

農園データ

生産国エチオピア
生産地域イルガチェフ
生産高度2,500m
精選方法ウォッシュド
品種エチオピア原生種

ボリビアから届いた昭和のJazz喫茶の渋み〜ボリビア ソル・デラ・マニャーナマニャーナ(2023年10月)

ボリビアのコーヒーの成り立ち

 ボリビアのコーヒーについて紹介したいと思います。ボリビアは南米大陸に位置し、国土の30%以上をアンデス山脈が占めています。ボリビアの首都である「ラパス」は、標高が3500mもあり世界一高い首都と呼ばれ有名です。

コーヒー生産地として最も有名なブラジルやペルーに隣接していて、コーヒー栽培に適した地形や気候となっています。

ボリビアのコーヒーの歴史についても触れたいと思います。

19世紀のスペイン植民地時代に入植したスペイン人によって始められました。当初は、首都ラパスの近くで始まりましたが、標高が3000m以上の土地が多く、土壌も痩せていたために、コーヒー栽培はうまくいかなったようです。

その後、栽培をする土地の標高を徐々に下げていき、標高1000~2000mの山の斜面などで栽培されるようになると、コーヒー豆の栽培は安定し、生産量は増加していったようです。

ラパス北東にある、アンデス山脈の北東山嶺ユンガス地方のコパカバーナ農園のコーヒー豆は質の良いものとして輸出されています。当店でも以前コパカバーナ農園のコーヒーをご提供したことがあります。

ラパスから北東、アンデス山脈をすこし下がった先のカラナビ地方、その山脈には肥沃な土壌が広がっており、山肌全体を覆うほどの雲霧がもたらす恵みの雨と相まって、多くの生命を育んでいます。

アナエロビックという名の発酵

 ソル・デラ・マニャーナはスペイン語で朝日を意味する、社会貢献プログラムです。地域の零細農家へ向けて、コーヒー生産のあらゆるプロセス(苗床から始まり、植え付け、収穫、害虫予防、剪定、財務管理など)を7年間かけて指導しています。

コーヒー豆の精製(コーヒーチェリーの果肉から豆に加工するプロセス)において、以前ザンビアのコーヒー記事で紹介したアナエロビック発酵を行っています。

アナエロビック

 コーヒーの精製方法には大きく分けてナチュラルとウォッシュドがあり、その中間と言えるパルプドナチュラル(ハニー)が主流となっていましたが、最近、嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)という手法が採り入れられ始めました。

コーヒーチェリーを酸素が遮断された密閉容器内で発酵させるというもので、酸素を使わない微生物の働きを利用したものです。

発酵酵母の中には、酸素がないところで活動的になる酵母がいて、発酵すると、通常の発酵時とは違った味わいやフレーバーが生まれます。

酸素を嫌がる酵母を活発にするために、空気を抜いて発酵させるやり方を「嫌気性発酵」、今日のアナエロビックファーメンテーションと言います。コーヒーチェリーをタンクや容器などにつめ、空気を抜き、酸素をなくした状態で発酵させるやり方です。

ワインで取り入れてきた手法で、コーヒーではまだまだ前例が少なく冒険的な取り組みです。

昭和のJazz喫茶、あの渋いコーヒー

 繁華街の雑居ビル2階にその喫茶店はあった。外からは全く目立たない。塗装の禿げた階段を上がると暗い木製の扉が見えた。不安げに扉を開いた途端、サクソフォンの甲高い音が耳に飛び込んできた。小さな店内の端には巨大スピーカーが2台括りつけられていて、Jazzの音が縦横無尽に空間を覆いつくし、内臓に響くかのように迫ってきた。

カウンターと小さなテーブル席が2つ、そこにいる数名の客は皆一人で来ているようだ。誰も一言も発さず、目を閉じてただ駆け巡る音に身を任せている。カウンターの片隅に座ると、向かいに座るママにホットコーヒーを頼んだ。愛想よくはいホットコーヒーですねときびきびと立ち上がった。

ホットコーヒー、お待ちどうさま、厚みのある真っ白なカップに入ったコーヒーが目の前に置かれた。口をつけると、少し酸っぱさがあるが、苦くはないな、と思ったら、舌がじんじんする渋さがきた。これは甘くないコーヒーだな、とひとりごちると、どこからか漂ってきたタバコの煙が鼻を通り過ぎた。そうか、ここは昭和のジャズ喫茶だ。

飲んだ瞬間、口回りの酸味に気づきます。苦味はなくまろやかな口当たりです。その後、舌に鉄っぽさが浮き上がってきます。そして、スモーキーな余韻が長く燻らせます。大人のなかなか渋いコーヒーです。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:鉄、青草、黒糖

農園データ

生産国ボリビア
生産地域ラパス、カラナビ
生産高度1,550m
精選方法ウォッシュド アナエロビック発酵
品種カトゥーラ、カツアイ、ブルボン

シェードツリーに守られて〜ドミニカ エバノヴェルデ(2023年9月)

コロンブスのイスパニョーラ島

 美しい景色を誇るカリブ海の産地、ドミニカ共和国。コロンブスが新世界の発見後、最初の町を建設したイスパニョーラ島。

イスパニョーラ島東部に位置する共和制国家です。小アンティル諸島のドミニカ島にあるドミニカ国と区別するため「共和国」をつけて呼ばれています。

ドミニカでは「野球」が有名です。数多くの野球場があり、プロ野球も6チームあります。
大リーグの有名選手で通算609本塁打のサミー・ソーサは、ドミニカ出身であり英雄です。現在も、大リーガーのおよそ10%がドミニカ出身のようです。

 ドミニカでは、ガブリエル・ド・クリューの伝説という、ドミニカのコーヒーの原種であるティピカの苗木がもたらされた物語があります。詳しくは、ドミニカ バラオナAA〜ガブリエルの一滴の水伝説をご覧ください。

シェードツリーに守られたコーヒー

 EBANO VERDE(エバノ ヴェルデ)は、コンスタンサ地方にある品質にこだわる16の小規模農園によって生産されました。農薬の使用を最小限にし、環境保護と土地の保全を目指した伝統的なシェード栽培を行っています。

シェードツリーによる自然が作り出す日陰がコーヒーツリーを高温と乾燥から防いてくれるのです。また、バナナやイモの木などで構成されるシェードツリーは、多様な生物を育み、森林や土壌の生態系を保全してくれるのです。

エバノヴェルデの出荷プロセスをご紹介します。


①成熟したコーヒーチェリーのみをハンドピック
②エコパルピング~洗浄
 (キロ当たり5リットル以下の水量使用)
③天日乾燥3~5日 水分11%
 その後3~4週間保管
④パーチメント除去、色選別
⑤ラボでの徹底した品質管理
 SCAA規準に基づくカッピング

豆をかじったような香ばしさ

しっかりと感じる豆の香ばしさ、苦味や酸味はほとんど感じられませんが、

香り高さと、厚みのあるコクが飲みごたえを作ってくれています。

苦味 ★☆☆

酸味 ★☆☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:焼き芋、黒糖

農園データ

生産国ドミニカ共和国
生産地域コンスタンサ
生産高度1,800〜2,200m
精選方法ウォッシュド
品種カトゥーラ、カツアイ

【9月13~9月19】新宿高島屋にて期間限定出店

西原珈琲店が東京にて期間限定出店

2023年9月13日から9月19日まで、新宿高島屋にて、西原珈琲店が期間限定出店いたします。

東京にて、お店と同じ西原プリンや西原チーズケーキを、本格コーヒーと一緒にお楽しみ頂けます。

概要

場所新宿高島屋「美味コレクション」催事場
期間9月13日~9月19日
時間期間中10時30分~19時30分 19日のみ17時閉店
メニュー西原プリンセット、西原チーズケーキセット

アマゾン川と呼ばれるコーヒー〜アマゾナスG1(2023年8月)

アマゾン川と呼ばれた地

 ペルー、アマゾナス県のコーヒーです。「Amazonas」と聞いて、まず浮かぶのはアマゾン川ですね。南米にある世界最大・最長の川です。アマゾン川のスペイン語表記は「Rio Amazonas」で、まさにアマゾン川を抱くという場所です。

ペルーにおけるコーヒーの始まりは、1700年代のスペイン植民地時代です。現在においても当時伝来された在来種ティピカが輸出される品種の70%以上となっています。

さらに、ペルーは世界でも有数のオーガニック認証やフェアトレード認証のコーヒー豆の輸出国でもあります。アマゾナス県はペルー北部アンデス山脈中に位置し、ペルーの高品質コーヒーの重要産地となっています。

ペルーのコーヒーの歴史はこちらの記事(ペルー ベラスコ将軍とはじまりのティピカ)をご覧ください。

レモンの酸味、そこはかとなく

 しっかりと感じる酸味、しかし、その後には舌に刺激が残りません。

酸味と一緒に感じる甘味が果実味を感じさせ、苦味もありません。

ほんのり漂うレモンの香りがさらに夏らしいすっきりさを作り出してくれます。

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:レモン、ウッド、青草

農園データ

生産国ペルー
生産地域アマゾナス県
生産高度1,500m
精選方法ウォッシュド
品種ティピカ、カティモール、パチェ

赤道直下、アンデス火山から届いたアンバランスさと瑞々しさ〜エクアドルSHBチト(2023年7月)

赤道という名の国

 エクアドルのコーヒーについて少し紹介しましょう。「エクアドル」とは実は、スペイン語で「赤道」という意味で、その名の通り赤道直下に位置している国です。アンデス山脈が国土を通り、大部分が山岳地帯に覆われています。赤道の熱帯地域と、アンデス山脈の火山灰土壌がコーヒー生産にとっても非常に適した場所であることがわかります。

 エクアドルは、15世紀には、インカ帝国に支配下にあり、1526年スペインのフランシスコ・ピサロの侵攻二よりスペイン植民地となりましたが、1830年に独立しました。エクアドルには、独特の進化をする動植物の宝庫と言われるガラパゴス諸島があります。

フランスの探検隊が持ち込んだブルボン

 エクアドルのコーヒー豆の歴史についてですが、最初にコーヒーの木が持ち込まれたのは19世紀にフランスの探検家がブルボン種を持ち込んだと言われています。火山灰質の土壌、アンデス山脈の高山地帯で寒暖差が大きいなど、コーヒー豆の栽培に適しており、コーヒー豆栽培は産業の中心となりました。

エクアドルは、量産品であるインスタントコーヒー用豆の一大産地でもあり、インスタントコーヒーの原料に使われているロブスタ種の栽培も行っており、その比率はアラビカ種6割に対してロブスタ種が4割となっています。

希少品種ティピカ・メホラード

 エクアドルのコーヒー生産地としては、アラビカ種のコーヒー豆を国内で一番多く生産している沿岸部のマナビ地方、生産量は国内の約50%を占めていて、標高200〜700mの低いエリアで大量生産を実現しています。次が、内陸の南部にあるロハ地方で、国内の約20%がここで栽培されています。栽培地の標高は1000m~2000mと栽培には最も適した高さです。そのため品質が高く、ロハ地方のコーヒーはコーヒー品評会にも多く登場しています。

今回のコーヒーは、チトはロハからさらに南へいったエクアドル最南端にあります。標高1500m、良質な土壌と気候に恵まれ、近年は、スペシャリティコーヒーの生産を増やしていくことを目指しています。

先月ご提供したたボリビアコーヒー「ビオ・アラビカ」もアンデス山脈のコーヒーでしたね。

今回のコーヒーの品種はティピカ・メホラードです。ブルボン種と、エチオピア原種を交配したものと判明しており、非常に珍しい

アンバランスさから溢れる瑞々しさ

 口に含んだ瞬間から柑橘の酸味が強く現れます。しかし、同時に甘味も隠れていて、まろかやさで包まれます。余韻には青みのある渋さが残り、ここは好き嫌いがありそうです。まだ、全体的に、アンバランスさがありつつも、瑞々しさとビビッドな風味は特徴的で面白いです。将来に期待したいポテンシャルを感じます。

苦味 ★★☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:レモン、青草、鉄、焼き芋

農園データ

生産国エクアドル
生産地域サモラ・チンチペ県チト地区
生産高度1,543m
精選方法ウォッシュド
収穫時期

アンデスの宝石コーヒー〜ボリビア ビオ・アラビカ(2023年6月)

アンデス山脈のコーヒー

 ボリビアのコーヒーについて紹介したいと思います。ボリビアは南米大陸に位置し、国土の30%以上をアンデス山脈が占めています。ボリビアの首都である「ラパス」は、標高が3500mもあり世界一高い首都と呼ばれ有名です。

コーヒー生産地として最も有名なブラジルやペルーに隣接していて、コーヒー栽培に適した地形や気候となっています。

ボリビアのコーヒーの歴史についても触れたいと思います。

19世紀のスペイン植民地時代に入植したスペイン人によって始められました。当初は、首都ラパスの近くで始まりましたが、標高が3000m以上の土地が多く、土壌も痩せていたために、コーヒー栽培はうまくいかなったようです。

その後、栽培をする土地の標高を徐々に下げていき、標高1000~2000mの山の斜面などで栽培されるようになると、コーヒー豆の栽培は安定し、生産量は増加していったようです。

ラパス北東にあるアンデス山脈の北東山嶺ユンガス地方のコパカバーナ農園のコーヒー豆は質の良いものとして輸出されています。当店でも以前コパカバーナ農園のコーヒーをご提供したことがあります。

カラナビの若き生産者

 ラパスから北東、アンデス山脈をすこし下がった先のカラナビ地方、その山脈には肥沃な土壌が広がっており、山肌全体を覆うほどの雲霧がもたらす恵みの雨と相まって、多くの生命を育んでいます。

そんなカラナビ地方でコーヒーを生産するビオ・アラビカ生産者組合は30代の若い生産者たちを主体とした小さな組合です。

農園の標高は1,000~1,750mで、1日の間でも寒暖差が大きく、熱帯雲霧林気候で降水量も多く、コーヒー栽培に適しています。

豊かな自然との共生を目指す循環型農業により赤々と熟したコーヒーチェリーは、急峻な山中で彼らの手で丁寧に手摘みされ、わたしたちの手にやってきます。

赤く熟した実をハンドピックで収穫し、ウォッシュドで精製しています。

口の中で豆が砕ける

 甘いベリーが香ります。口当たりとても柔らかい、しかし、一気に広がる豆の香ばしさ、飲んだ後も砕けた豆の風味が漂い続けます。穏やかな酸味は、深いコクとバランスして、心地よいです。深く長いコクが余韻に残ります。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:ベリー、オレンジ、檜

農園データ

生産国ボリビア多民族国
生産地域ラパス県カラナビ郡
生産高度1,000〜1,750m
精選方法ウォッシュド
収穫時期5月〜9月

魔法の土とコーヒー〜メキシコ エル・ピラール(2023年5月)

メキシコ、4大コーヒー生産地

 

 今回はメキシコのコーヒーです。メキシコのコーヒー生産は、実は、ブラジル、コロンビアに次ぐ中南米第3位の規模。生産は南部に集中しており、下の地図で囲った場所が主要生産地となっています。地図を見てみると、メキシコ南部から、ガテマラ、エルサルバドル、ニカラグア、コスタリカと、コーヒーの主要生産国が続いています。ちょうど、コーヒーベルトにあることに加え、火山灰豊富な山脈が続いていることもあると思います。

 主要生産地は、

チアパス州のタパチュラ

オアハカ州のオアハカ

プエブラ州のプエブラ

ベラクルス州のコアテペック

となっています。今回は、最南にあるガテマラと接するチアパス州です。

魔法の土

 エルピラール農園は、山脈にあり、歴史的に魔法のように豊富な作物をもたらす土壌ゆえ「魔法使いの山」と呼ばれていたようです。

過去にもコーヒー生産がされていましたが、サビ病の蔓延で、近年は生産の危機に陥っていたところ、2015 年にエルピラール農園主であるクリスチャン・ベルトランド氏が、この地の地元民の収入源となるよう花を植え始め、後に、サトイモ栽培を始めました。

さらに、収益性の高い農産物として、スペシャリティーコーヒーの生産を2016 年から始めたのでした。生産プロセスにおいて様々な工夫を重ねて高品質でユニークなコーヒー作りに取り組んでいる農園です。

風味が踊る

 酸味をしっかり感じます。少し舌に当たる渋さもありますが、甘みがその刺激を和らげてくれていて、そのトーンの変化が踊るようです。余韻には豆の香ばしさが長く漂います。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★★

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:りんご、青草、木の皮、鉄

農園データ

アナエロビックのフレーバー〜ザンビア グランレイナ(2023年4月)

これからのコーヒー、ザンビア

 こちらはザンビアのコーヒー生産地のマップです。1970年代と若く、国内でもコーヒーはまだまだ普及しておらず、農業生産高の1%にも満たない状況です。この地図を見るとゾウ、ライオンの生息地と一緒に紹介されているところがさすが大自然アフリカですね。なんだかワクワクします。

 まだコーヒーの歴史は浅いものの品質向上には、国をあげて取り組んでおり、ヨーロッパ中心へ輸出をしているザンビアを代表する農園で、今月のコーヒーの生産農園であるNCLLは国営農園となっています。日本もODAやJETROを通じて、生産拡大や輸出に協力をしているようです。詳しくはザンビア日本大使館記事をご覧ください。

アナエロビックへの冒険

 面白いのが、コーヒーの精選において、ウォッシュド、ナチュラル、ハニーの他に、

アナエロビック

を採りいれている、ことです。

 コーヒーの精製方法には大きく分けてナチュラルとウォッシュドがあり、その中間と言えるパルプドナチュラル(ハニー)が主流となっていましたが、最近、嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション)という手法が採り入れられ始めました。

コーヒーチェリーを酸素が遮断された密閉容器内で発酵させるというもので、酸素を使わない微生物の働きを利用したものです。

発酵酵母の中には、酸素がないところで活動的になる酵母がいて、発酵すると、通常の発酵時とは違った味わいやフレーバーが生まれます。

酸素を嫌がる酵母を活発にするために、空気を抜いて発酵させるやり方を「嫌気性発酵」、今日のアナエロビックファーメンテーションと言います。コーヒーチェリーをタンクや容器などにつめ、空気を抜き、酸素をなくした状態で発酵させるやり方です。

ワインで取り入れてきた手法で、コーヒーではまだまだ前例が少なく冒険的な取り組みです。

柑橘の甘み

 しっかりと感じるコク、やさしい甘み、柑橘の酸味が奥からじわじわと広がってくる。余韻はきゅっとまとまるバランスの良いストレートコーヒーです。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:ウッド、オレンジ

農園データ

その名はリラ〜ニカラグアサンタアナ農園(2023年3月)

中米最大の国、ニカラグア

 ニカラグアは中米の中心にあり、北はホンジュラス、南はコスタリカに挟まれています。人口は600万人、国土は13万㎢で中米の中ではもっとも国土面積が広く、農業がさかんな国です。コーヒーの産地は北部山岳地帯を中心に広がっています。

 ニカラグアは19世紀の半ばにコーヒーがもたらされると、コーヒーは産業の中心となり、国の経済を支えてきました。また、96%程度のコーヒー農園は原生するシェードツリーに覆われており、ニカラグアの中で生態系や土壌・水源を保安する役割を担っています。

 ヒノテガ県はニカラグア北部に位置するコーヒーの生産の中心地で、豊かな火山性の土壌と、広大な貯水池であるアパナス湖を擁する標高が高く自然豊かなエリアです。

 火山とコーヒー豆の切っても切れない関係はこちらの記事に詳しいです。

農園主リラ、30年をかけて

 サンタアナ農園はこのヒノテガ地区に位置する、90年以上の歴史を持つ伝統ある農園です。農園内には小川が流れ、多くの動物や昆虫たちが生息するなど、自然豊かな環境を有しており、レインフォレスト・アライアンスなど、サステイナブル認証も取得しております。

 3代目である女性農園主のリラは、農園内の母屋で生まれ育ち、父親からこの農園を受け継いでから30年以上、高品質コーヒーの栽培に取り組んできました。100%手摘みの原料はその熟度にもこだわり、精選工程の中でも完熟割合を高めるべく取り組んでいます。完熟したチェリーは、その果実の甘みを豆に浸透するのです。

 完熟チェリーについてはこちらの記事が詳しいです。

完熟チェリーが落ちてくる

 最初口に含むと甘酸っぱさが表れます。そして、しっかりとしたコクがその後に伸びていきます。余韻はすっと消えていき、ふくよかな口当たりだけが残されます。

 完熟チェリー由来の甘みと酸味、雑味は全く感じられなく、とても飲みやすいのに、深いコクも楽しめる一級品です。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆

フレーバー:濡れた木、ベリー

農園データ

所在地ヒノテガ県ラ・フンダドーラ地区
標高約1,200m
平均降雨量2,500mm/年
開花期3〜5月
収穫期10〜12月
面積約104ha
生産量約2,570袋
栽培品種カトゥーラ、ビジャサルチ等