師走の夜、帰る場所
日本の12月、寒さが骨身に染みる夜。Nは部屋に戻り、静かに湯を沸かした。
街は華やかなイルミネーションに浮かれているが、Nが求めているのはそんな明るさではない。もっと根源的で、静かな熱だ。
封を開けると、深く香ばしい「薪」のような薫りがふわりと立ち上がった。
それは、どこか懐かしい、山小屋の暖炉や静かな夜の焚き火を思わせる香りだ。その煙の向こう側に、Nはふと、遠い南の島の霧深い山影を見た。カリブ海に浮かぶドミニカ共和国、ハラバコア。「常春の街」と呼ばれるその場所の景色だ。
1. 霧の路地と「グレカ」の音

ドミニカの朝は、白い霧と共に明ける。
Nは、ハラバコアの石畳の坂道をゆっくりと歩いていた。標高1,000メートルを超えるこの地の空気は、カリブの海風とは違う。ひんやりと湿り気を帯び、苔むした森と濡れた土の匂いが混ざり合っている。
霧の向こうから、ピンクやターコイズブルーに塗られた家々の壁がぼんやりと浮かび上がる。早朝の静けさを破るのは、路地のあちこちから聞こえる生活の音だ。
「コポコポ、シューッ」
それは、この国のどの家庭にもある直火式メーカー、「グレカ(Greca)」が沸き立つ音だ。窓からは、焦がした砂糖と濃厚なコーヒーの香りが漂ってくる。
道ゆく人々が「カフェシート(コーヒーはいかが)?」と笑いかける。彼らが手にするデミタスカップの中身は、驚くほど濃く、漆黒だ。
冷涼な風が吹き抜けるこの「カリブのアルプス」で、人々はこの熱い液体をガソリンのように体に流し込み、一日の熱を作る。
Nが手にしたこの豆は、そんな彼らの飾らない日常と、生きるための熱源の記憶を宿した「選ばれし豆」なのだ。

2. 火山と水が育む「野生の青」

ハラバコアの農園は、整然としたプランテーションとは趣が異なる。
肥沃な火山性土壌の急斜面に、小規模な農家たちがへばりつくように木を植えている。豊かな雨と水資源を使った「水洗式(ウォッシュド)」で精製される豆は、雑味がなくクリーンだ。だが、それだけではない。
厳しい寒暖差の中で育った豆は、小粒ながら石のように硬く、成分が凝縮されている。そこには、洗練されすぎていない「野生の青味」が色濃く残る。
それは未熟さではない。深い森の草いきれや、湿った土の匂い、あるいはハーブのような鋭さだ。Nはこの「青味」に、美しく整えられた庭園ではなく、鬱蒼とした原生林の息吹を感じていた。

この力強い豆を、どう味わうべきか。その答えは、現地の「グレカ」のように、力強くあるべきだった。
3. 炭火が呼び覚ます「薪」の味
硬く引き締まったハラバコアの豆。そのポテンシャルを解放したのは、「炭火」による深煎りだった。
ガス火の熱風では届かない豆の芯まで、炭火が貫通する。
ハラバコアが持つ「野生の青味」は、炭の熱と混じり合って、香ばしい「ナッツ」や、乾燥した「薪」の香りへと昇華した。
それは、ドミニカの人々が愛する濃厚なコクへのリスペクトであり、日本の冬に合わせた解釈だ。「栗のような甘み」という表現すら超えて、もっと根源的な、「焦がした木の実」のような深い味わいが顔を出す。

4. エンシエントな焚き火
Nは、丁寧にドリップした漆黒の液体を口に運んだ。
瞬間、口の中にブワッと広がる重厚な苦味。
「苦い」。だが、それは舌を刺す不快な苦味ではない。
口の中に煙があるような、スモーキーなリッチさ。
目を閉じると、パチパチと薪が弾ける音が聞こえてくるようだ。焚き火の前で、ただ炎を見つめていたあの夜。現代社会のノイズが消え、ただ火と自分だけが存在する深い安らぎ。
喉を通った後に残るのは、ほのかな「青味」のある余韻。
それは、すべてが焼き尽くされた後の静寂の中に、ふとハラバコアの森の風が吹き抜けたような感覚だ。
まるで焚き火の煙の香ばしさを、そのまま液体にして楽しんでいるかのような、深く落ち着いた味わい。
5. 静寂を飲む
Nはカップを置き、長く息を吐いた。
華やかな酸味や、わかりやすい甘さを求めるトレンドとは真逆を行く、媚びない一杯。けれど、この12月の寒さには、この無骨な温かさが何よりも心地よい。
焚き火で薪が弾ける前で、コーヒーをゆるりと味わう。
そんな贅沢な時間を、この一杯が連れてきてくれる。
旅人Nは思う。今年の冬は、この煙の匂いと共に、静かに一年を振り返ろうと。
この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、12月限定の「ドミニカ ハラバコア 〜炭火深煎り〜」をぜひお楽しみください。
口いっぱいに広がる香ばしさと、野性味あふれる余韻は、寒い冬の夜、あなたを静かな焚き火のそばへと誘います。
商品データと風味
| 項目 | 詳細 |
| 生産国 | ドミニカ共和国(ハラバコア地区) |
| エリア | 中央山脈 “カリブのアルプス” |
| 標高 | 800m ~ 1,500m |
| 精選 | ウォッシュド(水洗式) |
| 焙煎 | 炭火焙煎(深煎り) |
風味バランス
| 苦味 | 酸味 | コク | 甘味 | 焙煎 |
| ★★★ | ★☆☆ | ★★★ | ★☆☆ | ★★★ |
フレーバーノート: 薪、炭、ローストナッツ、野生の青味、リッチな苦味

