ミエリッヒ家のレモン畑〜リモンシリョ ジャバニカ ウォッシュド 2025年7月限定コーヒー (コーヒートラベラーNの手記6)

農園の書庫で見つけた一冊の本

リモンシリョ農園に着いて間もなく、Nは訪問者用の控え室に通された。

壁際の低い書棚に、一冊だけ背表紙が革張りの本があった。

“Historia de Mierisch”――エンボス加工されたその文字を指先でなぞる。

手に取るとずっしりと重く、ページの間から少し乾いた紙の香りが立ち上った。

Nは、静かにページをめくった。

第1章:ブルーノの開拓と始まりの木

第一章には、一枚の古い写真が貼られていた。ドイツ風の服装をまとった若き男性。

「ブルーノ・ミエリッヒ・ボエティガー。1890年代、ニカラグア鉄道建設に従事し、山間部の136ヘクタールの土地を得る。その地を“Las Lajas”と呼び、1908年、ティピカ種の木を最初に植えた」

書き込みは端正で、ところどころに手書きの補足が加えられていた。

Nは思った。この地に立ち、異国の空に挑んだ若者がいたこと。

誇り高くも、静かな始まり。

第2章:博士の帰還と改革

ページを進めると、次に現れたのは「Erwin R. Mierisch」の名前だった。

米国で学び、研究者としての道を選びながらも、農園を継ぐため帰国した三代目。ページには、1990年代以降の改革の記録が綴られていた。

「大量生産からスペシャルティへ。地域共生の哲学を導入し、労働者3000人への福祉制度、教育、医療インフラを整備。品種開発・精製プロセスも改革」

その隣に、鉛筆書きでこう記されていた。

「2001年、帰路の農道で“ジャワ”と記された種袋を拾う。由来不明。育成開始」

何気ない一文だった。

だがNは、その言葉にしばらく指を置いた。

拾われた種。誰にも知られず、名前すらなく、ただ持ち帰られた一粒。

それがやがて、「ジャバニカ」として世界中のロースターを驚かせる存在になる。

ページの余白には、小さなインクで「2007年 CoE 第2位」とだけ記されていた。

第3章:現在を担う若き継承者

最終章には、見覚えのある笑顔があった。

第五世代、エルウィン・ジュニア。通称“Wingo”。

農園の現責任者。発酵制御・乾燥技術の精度を高め、さらなる味の多様性を追求する日々。

どのページも“継承”というより、“更新”という言葉がふさわしかった。

本の中に挟まれた種の記憶

本を閉じる前に、Nはしばらくそのままページを見つめた。

折り込まれた一枚の紙。そこには、くすんだ茶色の種袋の写真が貼られていた。

“Javanica – 2001. sin nombre.”

名もなきときに、味は既に始まっていたのだ。

味わうことで立ち上る時間

カッピングルームの静けさの中で、Nは一杯のジャバニカを手にした。

豆を挽くと、まるでページをめくるように香りが立ち上る。

最初の印象は、驚くほどクリーン。重さやとろみのない、すっと舌の上を滑る質感。

そして、ダージリンのような優雅さをほのかに湛えた酸味が、ゆっくりと口の中に広がっていった。

その余韻の中に、Nはふと、ほんのりとレモンのような爽やかな酸を感じ取った。

紅茶にレモンを一滴垂らしたような、繊細で明るい香り。

その瞬間、記憶の底から“Las Lajas”という言葉が浮かび上がる。

ミエリッヒ家が、この土地を手に入れたときに名付けた名——レモン畑。

100年以上前、ブルーノがこの地で見つけた小さなレモンの木々。

それが耕され、受け継がれ、やがてジャバニカとなり、

いま自分のカップにまで続いていたのだ。

土地の香りは、名前を変えてもなお、香りとして残る。

そのことに気づいたNは、深く、静かに感動していた。

透明な味。

それは名よりも前に存在していた時間の香りだった。

本を閉じ、未来へ向かうまなざし

本を閉じて、Nは深く息をついた。

道端で拾われた無名の種。

異国の土地に根を張った家族の歩み。

名を得る前から宿っていた静かな価値。

そして、自分自身。

いつか、誰かに見出され、拾われた瞬間があったこと。

あの一粒が育った時間を、一杯の中に感じながら、

Nはそっとカップを口元に運んだ。

このコーヒーは、“ジャバニカ”という名前の前にある物語を、今も静かに語っている。

※本記事は、ニカラグアのマタガルバ地区にあるミエリッヒ家によって経営される「リモンシリョ ジャバニカ ウォッシュド」の歴史と特徴を基に創作されたフィクションです。

コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ダージリン、レモン

農園データ

生産国ニカラグア
標高980〜1,350m
品種ジャバニカ
精選ウォッシュド

トラジャの深煎りと、角の家のこと ― セレベスのG1を味わう〜インドネシア セレベス アラビカG1 2025年6月限定コーヒー (コーヒートラベラーNの手記5)

山の町と、柱に並ぶ角

標高1600メートル。セレベス島、トラジャ高地の静かな町に、Nは足を踏み入れた。

空気は澄んでいて、山の影がゆっくりと動いている。ふと見上げた家の柱に、水牛の角が何本も重ねられていた。

「この角はね、葬儀で捧げた水牛の数。つまり、その家の誇りの数です」

近くにいた青年が、少しだけ誇らしげに語った。

派手な飾りではない。ただ静かに、重ねられた角が、ここに生きる人々の時間と誇りを物語っていた。

Nは、言葉ではなく形で残された想いに、深く惹かれた。

湿った島で仕上げられる豆

山あいの農園では、赤く熟したチェリーがかごに集められ、手作業で一つずつ確認されていた。

「この土地は湿気が多いから、時間との勝負です」

農園主が、チェリーを果肉除去機(パルパー)に流し込みながら話す。

果肉が外れた豆は発酵槽で一晩眠り、翌朝、丁寧に水で洗い流される。

そして、まだ水分を多く含んだ状態の豆が、脱穀機へとかけられる。

この地特有の「スマトラ式精製」。湿度の高い気候に適応した、合理的でありながら繊細な工程。

インドネシアは、世界でも有数のコーヒー大国。国全体ではロブスタ種の生産が中心だが、高地ではアラビカ種が静かに育てられている。

それぞれの島が個性を持ち、スマトラ島ではマンデリン、ジャワ島ではティピカ、バリ島やフローレス島、そしてここスラウェシ島では“セレベス・アラビカ”として知られる味が育まれている。

この地のアラビカG1は、湿潤な空気と高地の冷涼な風をまといながら、静かに精製されていく。

手の中の品質

小さな集買所では、麻袋からこぼれた豆が選別台に並べられていた。

「G1は、300グラム中の欠点豆が11粒以下なんです」

スタッフが語る声は落ち着いていたが、その目は真剣だった。

Nは一粒ずつ確かめられていく豆を眺める。誰かの手が、誰かの目が、そのすべてを通って仕上がっていく。

「この豆には、飾りはないけれど、確かに人の想いが積み重なっている」

赤土の丘、昼夜の寒暖差、そして小さな農家のていねいな作業。

味の背後にある風景が、ゆっくりと浮かび上がってくるようだった。

味わう:芯に残る香ばしさ

焙煎されたアラビカG1をミルにかけた瞬間、深く香ばしい香りが立ちのぼる。

豆を挽いたときの匂いには、どこか薪をくべた火のようなあたたかさがある。

ゆっくりと淹れた一杯を口に含む。

まず届くのは、しっかりとした苦味。だがすぐに、丸みを帯びたコクとやわらかな甘みが舌に残る。

深煎りならではの香ばしさが、静かに広がっていく。

「この味は、湿気の中で育ち、人の手で磨かれてきた記憶のようなものだ」

芯の部分にしか残らない何かが、確かにある。

結び:香りで語る、飾らぬ誇り

山の家の柱に並ぶ水牛の角。

豆を選ぶ人の手。雨上がりの斜面に広がる畑。

派手な言葉ではなく、静かな積み重ねが、この味を作っていた。

「形は残らなくても、香りは語る」

Nは、カップの底を見つめながら、小さく息をついた。

焚き火のように、ゆらゆらと漂うその香りのなかに、土地の記憶が溶け込んでいた。

※本記事は、インドネシア・セレベス島のトラジャ&エンレカン地域で生産される「セレベス・アラビカ G1」と、そのスマトラ式精製プロセスを基に創作されたフィクションです。

コーヒーの味わいとともに、その土地の記憶と人々の営みを感じていただければ幸いです。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★☆☆

コク ★★☆

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★★  

フレーバー:ほうじ茶、黒糖、シガー

農園データ

生産国インドネシア
標高約1,500m
品種アラビカ G1
精選スマトラ式(スマトラプロセス/セミウォッシュド)

コーヒートラベラーNの手記4:木が話すとき ― アカシアの丘で交わされた、語られぬ記憶〜タンザニア アカシアヒルズ 2025年5月限定コーヒー

はじまり:風が揺らす、無言の木

Nがアカシアヒルズ農園に着いたのは、標高1,900メートルを超える午後のことだった。薄い空気に包まれた丘の上で、一本のアカシアの木が静かに風に揺れていた。

「この木は、いろんなことを見てきた。」

そうつぶやいた農園主レオンの言葉に、Nは足を止めた。風は枝をわずかに鳴らし、まるで何かを語りかけてくるようだった。

木は話さない。でも、話すときがある。

Nはそう思った。

タンザニアの記憶:コーヒーという希望

かつてタンザニアには、無数の小さなコーヒー農園が点在していた。19世紀末、ドイツ人によって持ち込まれたアラビカ種。標高1,500mを超える冷涼な高地に広がる赤土の大地は、コーヒーの栽培にとって最適な環境だった。

しかし、長く続いた植民地支配、政治の混乱、インフラの未整備……さまざまな理由でタンザニアのコーヒーは「量は多いが、質はまばら」と言われてきた。

そんな中、2000年代に入り、スペシャルティコーヒーという新しい価値観がこの国にも流れ込んだ。

「質の高い豆を、丁寧に作る」

――そのシンプルな挑戦が、いくつかの農園の中で芽吹きはじめた。

アカシアヒルズ農園も、そんな挑戦のひとつだった。

三代目が選んだ丘:過去を越えて、豆の未来へ

レオン・クリスティアナキスは、祖父母の代から続くコーヒー生産家系の三代目だった。かつて家族が営んでいたのは、タンザニアの低地に広がる農園。しかし、熱帯の気候では品質の高い豆が育ちにくく、満足いく結果が得られなかった。

2000年代に入り、スペシャルティコーヒーという概念に出会ったレオンは、心を決めた。

「このままじゃ、終われない。」

彼は高地を探し、そしてたどり着いたのがこの丘だった。荒れ果てていた農園跡地に立ち、風に揺れる一本のアカシアの木を見たとき、確信した。

「ここなら、いける。」

木は語らなかったが、何かを見せてくれていた。

この丘では、ケニア由来のSL28という品種が育てられていた。強い日差しにさらされながらも、豊かな酸味と果実味をたたえた高品質なアラビカ種。その豆は、レオンの理想を体現するかのように、じっくりと力強く育っていた。

精選の場:沈黙の中で磨かれる豆

丘の中腹にある精選所。朝採れたばかりのチェリーが赤く熟れ、次々に搬入されていく。水路を流れる豆たちは、やがて発酵槽へと沈められる。

「水で洗うことで、豆の芯が見えてくるんです。」

レオンの横顔は、どこか寡黙だったが、その瞳には確かな意思が宿っていた。数時間の発酵の後、何度も水で洗われた豆は、ざらりと手に心地よく馴染んだ。

沈黙も、洗われて、形が見えてくるのかもしれない。

Nはそう感じた。

乾燥棚にて:風が語る豆の未来

収穫から48時間後、アフリカンベッドの上で豆が静かに乾かされていた。天日と風に晒されながら、豆はじっくりと水分を抜き、風味を深めていく。

若いスタッフが手で豆を混ぜながら言う。

「言葉より、作業で伝えるんです。」

アカシアの木の影が乾燥棚の端を覆っていた。レオンがふと語る。

「日陰にこそ、旨みが宿る。焦って乾かしてはいけないんです。」

風が吹いた。枝が揺れた。豆がわずかに転がった。

風が吹くと、枝が語り出す気がした。

一杯の味:沈黙と衝突の間に

焙煎されたサンプル豆が届き、レオンとNはカップを前に並んだ。香ばしい、焦げたアーモンドのような香りが広がった。

一口、口に含む。

最初に走るのは、ビビッドな酸味。青リンゴのような青さが広がり、すぐに深いコクと重なる。その間に、心地よい渋みが舌に残る。

「若さとビターさがぶつかり合ってる。でも、そこに旨みがある。」

Nは目を閉じて感じた。

語られなかった物語が、味として立ち上がってくる。

結び:あなたにも聞こえますか?

再び風が吹いた。アカシアの木の枝が、ささやくように揺れる。

「話さない人たちが残したものが、今ここで香っている。」

この丘の風、木の影、洗われた豆の静けさ。

そのすべてが、この一杯に宿っていた。

この沈黙の物語を、あなたのカップでも味わってみませんか?西原珈琲店で。

Nの謎:遠い丘に残したもの

農園を発つ朝、レオンが聞いた。

「N、あなたはなぜこんな旅を?」

Nは答えなかった。ただ、小さなノートを取り出し、アカシアの葉を一枚挟んだ。

僕の祖父は、最後まで何も語らなかった。僕もまた、語らないことで、誰かの声を聞こうとしているのかもしれない。

誰かの言葉の代わりに、この土地の風景と味を残す――

それが、Nの旅の理由のひとつだった。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


この物語について

本記事は「タンザニア アカシアヒルズ」のスペシャルティコーヒーをもとに、実際の風味・歴史・生産背景から着想を得たフィクションです。コーヒーを通して、アフリカの土地と人と、未来を感じていただければ幸いです。

—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★★★

コク ★★★

甘味 ★☆☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:焦がしアーモンド、青リンゴ、シガー、青草

農園データ

生産国タンザニア
標高1,750〜1,950m
品種SL28
精選フリーウォッシュド

コーヒートラベラーNの手記3:『火と水と音楽と ― キニニ村で見つけた四つの元素〜ルワンダ・キニニ 2025年4月限定コーヒー

はじまりは「風のない音楽」

Nがルワンダの地を訪れたのは、乾いた風が高地を吹き抜ける午後だった。遠くにはブンガ山脈の尾根がうっすらと見え、足元の赤土には力強く根を張るコーヒーの木々が並んでいた。

「この国に、かつての面影はあるだろうか?」

かつてジェノサイドによって国が崩壊した1994年。その絶望からわずか30年足らずで、ルワンダはスペシャルティコーヒーの新興国として世界の注目を集めるようになっていた。政府と国際支援団体が手を携え、2000年代に入ってから急速に品質改善とインフラ整備が進み、今や北部・南部・西部の高地では、火山性の肥沃な土壌と標高1800mを超える冷涼な気候のもと、ブルボン系品種が美しく育まれている。

この日、Nが目指していたのはその北部にある小さな村――キニニ。そこには、「火・水・空気・音楽」のすべてを宿すコーヒーがあるという。


火:焼かれることで生まれる「深み」

キニニ村にたどり着いたNは、焙煎士に出会った。農園の隅に小さな焙煎室があり、中では豆が鉄製の焙煎釜の中でリズムよく跳ねていた。

「この焙煎で何を引き出すんですか?」とNが尋ねると、焙煎士はこう答えた。

焼きリンゴのような甘さと、大人のカカオのようなビタネス。深く焼かれてこそ現れる複雑な香り。それがこの豆の“火”です。」

豆の香ばしさが部屋中に漂い、Nは一粒を砕いて香りを嗅いだ。そこには確かに、焦がした甘みと、黒く美しい苦味の片鱗があった。火を入れることで、豆の中の時間が目を覚ます。それはまるで、焼かれることではじめて語り出す物語のようだった。


水:洗い流された記憶の層

キニニ村の中心には、小さな精製所があった。そこではフリーウォッシュドプロセスが行われていた。

チェリーが集荷されるとすぐに果肉除去機にかけられ、発酵槽に沈められる。数時間〜20時間、微生物の働きに任せてミューシレージを分解し、その後何度も清水で洗い流す。

「私たちの豆は、“洗い清める”ことでその本質を取り戻すのよ。」と、発酵槽の管理を担う年配の女性が語った。

Nはその静かな水の中に、ルワンダの歴史が重なって見えた。過去の悲劇、そしてそれを“洗い流し”、“残されたもの”に光を当てていくようなこのプロセスは、まるで国そのものの再生のようだった。

水で磨かれた味は、決して薄まらない。むしろ、輪郭が立つ。

それは、精製槽の中に沈んだ記憶が、味となって浮かび上がるようだった。


空気:風が通る乾燥台、静かに踊る豆

精製された豆は、その後アフリカンベッドと呼ばれる高床式の乾燥台へ運ばれ、天日で約15日間乾かされる。

Nはその乾燥台に立ち、吹き抜ける風を感じていた。豆の下にも空気が通り、昼間は太陽の光を受け、夜は冷たい空気でゆっくりと熱が抜かれていく。

農園の若者たちが手で豆をかき混ぜていく姿は、まるで無音のダンスのようだった。

空気が通らなければ、豆は呼吸できない。乾くだけじゃない、“生き返る”んです。」と、若いスタッフが笑う。

その言葉の通り、ここではただ豆を乾かすのではなく、豆の中の余熱や湿度、香りの層を調律するように扱われていた。まるで風そのものが、コーヒーの風味を編み上げているかのようだった。


音楽:一杯の中で踊り出す味わい

焙煎された豆がカップに落ちた瞬間、Nの鼻孔をふわりと包んだのは、ビタースイートな香りだった。

口に含むと、最初に走るのはビビッドで鮮やかな酸味。だが、それはすぐに旨みに変わる。次に訪れるのは焼きリンゴのような優しい甘さ。そして、100%カカオチョコレートのような濃厚なビター感がゆっくりと舌を包み込む。

「これは…音楽だ。」

Nは思わず声を漏らす。高音のシトラス、ミドルのリンゴ、低音のチョコレート。甘さがリズムを刻み、酸がメロディを作り、ビターがベースを支えている。

まるで、ラテンの音楽を踊るようなコーヒー。

鮮やかで、楽しくて、奥深い。

この国の再生は、まさにこの一杯のようだとNは思った。


西原珈琲店で、ルワンダから届いた四元素を味わってみませんか?

ルワンダの火、ルワンダの水、ルワンダの風、そしてルワンダの音楽。

すべてが溶け合った一杯のコーヒー。

それは、キニニ村で紡がれた復興と希望の味。

この物語を、あなたのカップで。
西原珈琲店にて、ぜひお楽しみください。


この物語について

本記事は「ルワンダ・キニニ村」のスペシャルティコーヒー(Mayaguez 139種、フリーウォッシュド精製)をもとに、実際の風味・歴史・生産背景から着想を得たフィクションです。コーヒーを通して、アフリカの土地と人と、未来を感じていただければ幸いです。

—-風味バランス—-

苦味 ★★☆

酸味 ★★★

コク ★★★

甘味 ★★★

焙煎 ★★☆  

フレーバー:焼きリンゴ、カカオ、メープル、ソーダ

農園データ

生産国ルワンダ
標高1,800〜2,250m
品種ブルボン
精選フリーウォッシュド、アフリカンベッドで100%天日乾燥

コーヒートラベラーNの手記②:『消えゆく幻と静かなる奇跡』〜ジンバブエ クレイク・バレイ 2025年3月限定コーヒー

消えた王国の記憶

Nはジンバブエの大地に降り立った。

かつてこの国は、東アフリカ随一のコーヒー生産国として名を馳せていた。19世紀末に持ち込まれたアラビカ種は、1960年代に産業としての基盤を確立し、1980年代には世界市場で高く評価された。しかし、2000年代の政治的混乱と土地改革により、多くの農園が消え去った。

しかし、今もなお「幻のコーヒー」として生き残る農園があるという。Nがその名を口にする。

クレイク・バレー農園。

ジンバブエの高地にあるこの農園は、奇跡的に荒廃を免れ、いまだに優れたコーヒーを育て続けているという。Nはその真相を確かめるため、赤土の道を歩き始めた。

谷の静寂

霧がかった山々が連なるブンハ山脈。クレイク・バレー農園は、この谷の奥深くにひっそりと存在していた。

Nは農園を見渡した。赤い土壌に根を張るコーヒーの木々、規則正しく並ぶシェードツリー、そして遠くに見えるダム湖の静かな水面。かつての混乱が嘘のように、この場所には穏やかな空気が漂っていた。

農園主が迎えてくれた。

「ようこそ。ここは静かだろう?」

Nは頷いた。

「この土地は嵐を乗り越えてきたのだな。」

農園主は遠くを見つめ、静かに語り始めた。

「国が荒れ、多くの農園が崩れ去った。でも、私たちはこの谷に踏みとどまった。土地を奪われた者もいたが、この農園は奇跡的に守られた。」

コーヒーの奇跡

Nは農園の奥へと案内された。シェードツリーの下でゆっくりと熟すコーヒーチェリー。農夫たちは静かに、しかし丁寧に赤く実ったチェリーを摘み取っていた。

「飲んでみるか?」

農園主が手渡したカップからは、香ばしい豆の香りが立ち昇った。

Nは一口含んだ。

夏の草原を吹き抜ける風のような爽やかさ。メロンのように弾ける感覚。ナッツのような香ばしさと、砕いたばかりの豆のような鮮烈な風味が舌の上で踊る。最後には、深みのあるコクが余韻として残った。

「これは…実にうまい。」

農園主は微笑んだ。

「この谷の気候がゆっくりとチェリーを熟させる。そして、私たちは時間をかけて精製し、天日乾燥で仕上げる。急ぐことは何もない。」

Nはカップを見つめながら、このコーヒーが持つ静かな奇跡を感じていた。

谷の朝

翌朝、Nは農園の丘へと登った。

霧が谷をゆっくりと包み込み、遠くのダム湖が白く霞んでいる。太陽が昇るにつれ、霧は次第に晴れ、赤土の大地が黄金色に輝き始めた。

農園の一角では、農夫たちが静かにチェリーを摘み取っていた。ゆっくりと、しかし確実に。かつて混乱と絶望に沈んだこの土地には、今、穏やかな営みが戻っている。

彼らの手の動き一つ一つが、この谷の未来を紡いでいるようだった。

Nはその光景を目に焼き付けながら、心の中でそっと呟いた。

「この土地の奇跡は、確かにここにある。」

Nの謎

焚き火の前で、農園主がNに尋ねた。

「なぜ君はコーヒーを追い続ける?」

Nは炎を見つめながら、しばし沈黙した。

「…俺は、消えていくものを記録するのが好きなんだ。」

「記録?」

「人々の記憶から消えたものは、なかったことにされる。でも、確かにここにあると証明できるなら、それは違う。」

農園主はじっとNを見つめた。その眼差しの奥には、ただの旅人ではない何かを感じ取った。

Nは少し微笑み、カップを傾けた。

この物語を味わう場所

ジンバブエのコーヒーは、長い眠りから目覚めようとしている。

それは決して過去の遺物ではない。クレイク・バレー農園のように、今も息づく人々の手で丁寧に育てられている。

「消えゆく幻は、まだここにある。」

Nはそう記し、旅を続けた。

あなたも、西原珈琲店でこの物語を味わってみませんか?


この物語について

本記事は「ジンバブエ・クレイク・バレー農園」のコーヒーの特徴や歴史から着想を得て創作されたフィクションです。コーヒーを楽しみながら、幻と奇跡の旅へ思いを馳せてください。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ナッツ、メロン

農園データ

生産国ジンバブエ
標高1200
品種カティモール、ブルボン、ティピカ、SL
精選ウォッシュド

コーヒートラベラーNの手記:「タンザニア・エーデルワイス AA〜2025年2月限定コーヒー

プロローグ:赤土の道とコーヒーの香り

旅を始めた理由を、Nは覚えていない。

ただ、気がつけばコーヒーの香りを追いかけていた。
それは、ある時は霧の立ち込めるエチオピアの山奥で、またある時はカリブの潮風を浴びるジャマイカの農園で。

「コーヒーには、時間と土地の記憶が詰まっている。」

どこかで聞いた言葉を思い出しながら、Nはタンザニアの赤土を踏みしめる。目的地は、北部オルデアニ地区のエーデルワイス農園。標高1,800mを超える火山性土壌の上に広がる、秘境のような場所だ。

しかし、そこに辿り着くまでに、Nはひとつの問いを抱えていた。

「タンザニアのコーヒーは、なぜ特別なのか?」

それを知るため、彼はキリマンジャロ山麓へと向かった。


キリマンジャロの麓で出会った「タンザニアコーヒー」の真髄

「君は、キリマンジャロのコーヒーを知っているか?」

モシの街の小さなカフェで、年老いたコーヒー農家が話しかけてきた。

「世界には多くのコーヒーがあるが、タンザニアには特別なものがある。その秘密は、この山が持つ“水”と“時間”だ。」

キリマンジャロ山の雪解け水は、この地域の土壌を潤し、ミネラルを豊富に含んだ土壌を形成している。そして、昼夜の寒暖差が大きいため、コーヒーチェリーはゆっくりと熟し、酸味と甘みのバランスを極限まで高める

Nが注文した一杯は、驚くほどフルーティーだった。

「これがキリマンジャロのコーヒーか…。」

柑橘のような明るい酸味と、ふくよかな甘み。まるで完熟したオレンジの果実をかじったかのような、みずみずしい味わいだった。

「でも、それだけじゃない。タンザニアには、もっと深みのある味が存在する。」

Nは、さらなる旅へと足を進めた。


エーデルワイス農園の発見:「ケント」と「ブルーマウンテン」の出会い

オルデアニの丘を越え、Nが辿り着いたのはエーデルワイス農園だった。

「ここでは、どんな品種が育てられている?」

農園主は、誇らしげに答えた。

「ケントと、ブルーマウンテン。どちらも、この土地に根付いた特別な品種だ。」

ケント種:タンザニアの伝統と強さ

ケント種は、もともとインドで生まれた品種だった。病害に強く、標高の高い場所でよく育つ。そして何より、しっかりとしたコクと深い甘みを持つのが特徴だ。

「ケント種は、まるで大地の記憶を閉じ込めたような味だよ。」

Nが試したケントのコーヒーは、カカオのような深いコクと黒糖の甘みが際立ち、苦味の輪郭がはっきりと感じられた。

ブルーマウンテン種:滑らかで優雅な味わい

「でも、ブルーマウンテン種は、まるで違う。」

農園主が見せたもう一つのカップには、まろやかでシルキーな口当たりのコーヒーが注がれていた。

ジャマイカのブルーマウンテン地方で生まれたこの品種は、優雅な香りとバランスの取れた風味を持ち、どんな焙煎度でも美しく映える。エーデルワイス農園のブルーマウンテン種は、焙煎が深めでも酸味が残り、苦味と甘みが調和していた。

「この二つの品種が合わさることで、この土地のコーヒーは唯一無二のものになっている。」

Nは、その味わいの奥深さに息を呑んだ。


エーデルワイスAA:タンザニアの“特別な豆”

「そして、最後にこれを見てくれ。」

農園主が手渡したのは、大粒のコーヒー豆だった。

「これはAAグレードの豆。タンザニアでは、コーヒーの等級は豆の大きさで決まるんだ。」

AAグレードとは、スクリーンサイズ17以上の特に大きな豆に与えられる最高等級。大粒の豆ほど、均一な焙煎が可能になり、豊かな香りと甘みを存分に引き出せる。

Nはその豆を手のひらで転がしながら、静かに思った。

「この豆の中には、この土地の時間と誇りが詰まっている。」


エピローグ:旅の続きは、あなたの手で

「コーヒーとは、土地の記憶そのものだ。」

Nは、そう記した後、手帳を閉じた。

このコーヒーが育まれた土地の物語を、あなたのカップで感じてみませんか?


店舗で味わう、またはお家で旅する

西原珈琲店では、今月限定で「タンザニア・エーデルワイス AA」を2025年2月限定メニューとしてご提供します。

☕ 店舗提供メニュー

  • エーデルワイスAAのハンドドリップ(シングルオリジン)
  • 西原プリンとエーデルワイスAAのペアリングセット(おすすめ!)

🍂 コーヒー豆販売

  • 豆のご購入は店頭にて

「旅の続きを、あなたのカップで。」

この物語について

本記事は、「タンザニア・エーデルワイス AA」の味わいと特徴から着想を得たフィクションです。タンザニアのコーヒー文化や歴史、エーデルワイス農園の背景をもとに、読者が物語を追体験しながらコーヒーを楽しめるように構成しました。

—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★☆☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★★  

フレーバー:カカオ、黒糖、ベリー

農園データ

生産国タンザニア
標高1650〜1820
品種ブルボン、ケント、ブルーマウンテン
精選ウォッシュド

エクアドルの至宝 ~赤道直下の太陽が育む、唯一無二のコーヒー「グレートマウンテン」〜2025年1月限定コーヒー

南米大陸の赤道直下、豊かな自然が広がるエクアドル。この地には、アンデスの高峰、太平洋沿岸、そしてアマゾン熱帯雨林が共存し、息を呑むような美しい風景が広がっています。そして、この豊かな土地で育まれるエクアドルコーヒーは、世界でも類を見ない風味と個性を持ち、多くのコーヒー愛好家の心を捉えています。

そんなエクアドルコーヒーの物語を紐解くと、赤道直下の太陽、気候、そして何よりも人々の情熱が生み出した一杯に出会うことができます。


エクアドルのコーヒーの歴史:試練を越えた希望の物語

エクアドルでのコーヒー栽培が始まったのは18世紀後半とされています。当初は主にアラビカ種が栽培され、ヨーロッパ市場への輸出が拡大。19世紀後半には、エクアドルは世界有数のコーヒー輸出国の仲間入りを果たしました。

しかし、20世紀に入るとコーヒー産業は大きな試練を迎えます。気候変動や病害虫の被害が拡大し、さらに石油産業の発展によって農業分野への投資が後回しにされる時期がありました。多くの農家が生産をあきらめざるを得ない状況に追い込まれたのです。

それでも、エクアドルの農家たちはコーヒー栽培を諦めませんでした。伝統的な手法を守りながら、小規模ながらも高品質なコーヒーの生産に力を入れ続けたのです。特に21世紀に入ってからは、スペシャルティコーヒー市場でその品質が評価され、国際的なコンテストで賞を受けることも増えています。エクアドルコーヒーは、試練を乗り越え、世界で再びその地位を確立しつつあります。


エクアドルの多彩な産地:風味の宝庫

エクアドルが誇る多様な地形と気候は、ユニークなコーヒーの個性を形作ります。主な産地を巡りながら、それぞれの地域が生み出す味わいの旅に出ましょう。


マナビ地域:太平洋が育むフルーティーな一杯

エクアドルの太平洋沿岸部に位置するマナビ地域。今回のコーヒーの産地です。温暖な気候と豊かな土壌に恵まれたこの地域は、フルーティーで爽やかな味わいのコーヒーで知られています。
特に、柑橘系の香りと軽やかな酸味が特徴的で、エスプレッソにするとその鮮やかな個性が一層際立ちます。この地域のコーヒーを一口飲めば、陽光輝く海辺を思い浮かべることでしょう。


ロハ地域:アンデスの秘宝が生む深み

標高1,800メートルにも達するロハ地域では、昼夜の寒暖差がコーヒー豆に豊かなフレーバーを与えます。この条件が豆の成熟をゆっくりと進め、複雑で深みのある味わいを実現しています。
ロハのコーヒーは、ダークチョコレートのような甘みとスパイシーなニュアンスが特徴で、濃厚な一杯を楽しむことができます。アンデス山脈に抱かれた自然の恩恵が感じられる逸品です。


ピチンチャ地域:首都の高地が生む繊細さ

首都キトを中心とするピチンチャ地域は、高地特有の冷涼な気候と豊富な日照量が魅力です。この地域で生まれるコーヒーは、酸味が強く、ベリー系のフレーバーが際立つ繊細な味わいを持ちます。
紅茶のような軽やかな口当たりのこのコーヒーは、特にフルーティーな味わいを好む方におすすめです。洗練された一杯の中には、赤道直下の冷涼な空気が詰まっています。


エクアドルコーヒーに込められた情熱

エクアドルのコーヒー農家たちは、栽培から収穫、精製に至るまで、手作業で丁寧に行っています。収穫期には、真っ赤に熟したコーヒーチェリーだけを手摘みで選び、ウォッシュドプロセスやナチュラルプロセスといった伝統的な方法で豆を精製します。
それぞれの農家が土地の個性を最大限に活かし、一杯に情熱と自然の恵みを詰め込んでいるのです。

農家たちは、「ただの飲み物」ではなく、地域の歴史や文化、そして自分たちの誇りを込めた「作品」としてコーヒーを生み出しています。一杯のコーヒーを飲むたびに、それがエクアドルの地から生まれたことを感じられるでしょう。


エクアドルコーヒーを味わおう

エクアドルコーヒーは、多様な風味と品質の高さで、世界中のコーヒー愛好家を魅了しています。その一杯に詰まった物語を味わえば、エクアドルという国の豊かさ、そして人々の温かさに触れることができるでしょう。

次にコーヒーを選ぶとき、ぜひエクアドル産を手に取ってみてください。その奥深い味わいとともに、赤道直下の太陽と大地、そして人々の情熱に思いを馳せてみてはいかがでしょうか?

グレートマウンテン:エクアドルの高地から生まれた至宝

エクアドルのコーヒーの中でも、特に注目を集めているのが「グレートマウンテン」です。標高1200メートルの高地で栽培されるこのコーヒー豆は、昼夜の寒暖差が大きく、豊かな土壌から栄養をたっぷり吸収して育ちます。手摘みで収穫された完熟したチェリーのみを使用し、丁寧に選果された豆は、洗練された風味を私たちに届けてくれます。

グレートマウンテンの特徴は、その複雑で深みのある味わいです。豊かなアロマと、口の中に広がる滑らかな舌触り、そして余韻に残る甘みが特徴で、まるでアンデスの雄大な自然を凝縮したような贅沢な一杯と言えるでしょう。

味について

 コーヒーを淹れる過程からオレンジピールとカカオの香りが漂います。少し苦味を感じますが、深いコクがあり、全体のバランスがよく、ティピカ品種らしいクリーンさがありビターさをまろやかに楽しめます。

—-風味バランス—-

苦味 ★★☆

酸味 ★☆☆

コク ★★★

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:オレンジピール、カカオ、アーモンド

農園データ

生産国エクアドル
標高1200
品種ティピカ、ブルボン、カツーラ
精選ウォッシュド

ミャンマーからの贈り物:グリーンランド農園のコーヒーで旅する「グリーンランドSL-28ナチュラル」〜2024年12月限定コーヒー

ミャンマーコーヒーの歴史: イギリス統治時代から始まるミャンマーのコーヒー栽培

ミャンマーのコーヒー栽培の歴史は、19世紀半ばに遡ります。1855年、イギリスの宣教師によってアラビカ種の苗木がミャンマーに持ち込まれたのが始まりです。この苗木は、南部のミェイクやダウェイ、そして避暑地として有名なピンウールウィン(旧名メイヨー)で栽培されました。これらの地域は、標高の高さや気候条件がコーヒー栽培に適しており、徐々に生産地として発展しました。

ミャンマーの国土は、標高2000メートル級の山々に囲まれた地形と、肥沃な土壌を持ちます。特に昼夜の寒暖差がコーヒーの風味を際立たせる条件を生み出し、高品質なコーヒー栽培に理想的な環境を提供しています。


特徴: フルーティーな香りと深い味わいが生む魅力

ミャンマーコーヒーは、他のアジア諸国とは異なるユニークな風味で知られています。その特徴は、鮮やかなフルーティーな香りと、奥行きのある味わい、そして後味の良さにあります。主にアラビカ種が栽培されており、これがミャンマーのコーヒーの繊細な酸味と甘みを生み出しています。

また、近年では環境に配慮した農法や品質向上のための技術導入が進んでおり、スペシャルティコーヒー市場での評価が急上昇しています。ナチュラルプロセス(天日乾燥)やウォッシュドプロセス(水洗式)、さらに近年注目を集めるハニープロセスなど、多様な精製方法が取り入れられています。それぞれの方法が豆の風味に個性を与え、多様な味わいを楽しめるのがミャンマーコーヒーの魅力です。


産地: ユワンガンを中心に広がる高品質なコーヒー

ミャンマーのコーヒー生産地は主に標高の高い地域に集中しています。その中でも特に有名なのが、シャン州のユワンガン地区です。この地域では、小規模農家が中心となり、農薬や化学肥料を使わないオーガニックな方法で栽培を行っています。ユワンガンは標高が高く、豊かな土壌と先進的な技術を活かして、高品質なアラビカ種を生産しています。

その他の注目産地としては、避暑地としても知られるピンウールウィンや、モーゴックがあります。これらの地域でも、丁寧に栽培されたアラビカ種のコーヒーが生産され、国内外で評価を高めています。


グリーンランド農園: 特別な風味を届けるシャン州の農園

今月ご紹介するのは、シャン州の「グリーンランド農園」から届けられる特別なコーヒーです。この農園は、標高1150メートルの高地に位置し、肥沃な土壌と昼夜の寒暖差を活かした高品質なコーヒーを生産しています。

グリーンランド農園の特徴
  • 味わい: フルーティーで甘みのある風味が特徴です。特に、トロピカルフルーツや赤いベリーのようなニュアンスが感じられ、まろやかな口当たりと後味に残るナッツの風味が楽しめます。
  • 精製方法: この農園では、ハニープロセスを採用しています。これは、コーヒーチェリーの果肉を部分的に残した状態で乾燥させる方法で、豆の甘みを引き出しつつ、酸味を控えめにする効果があります。これにより、フルーツのフレッシュさとコクが絶妙なバランスで調和しています。
  • 持続可能性: 環境への配慮も農園の重要な取り組みの一つです。持続可能な農法を採用し、農業コミュニティの支援を行うことで、地域社会とともに発展しています。

ミャンマーコーヒーで味わう物語

ミャンマーコーヒーは、歴史、自然の恵み、そして新しい技術の融合から生まれる宝物です。その一杯には、ミャンマーの風景や文化、人々の情熱が詰まっています。

グリーンランド農園のコーヒーを通じて、ミャンマーの新たな魅力を発見してみてはいかがでしょうか。一杯のコーヒーが、あなたの日常に新たな視点と豊かさをもたらしてくれることでしょう。


味について

 コーヒーを蒸らした瞬間からベリーの香りが漂ってきて、上質な歯に⓪ナチュラル(完熟豆の天日乾燥)と気付きます。

ベリー感豊かな風味に、酸味もしっかりと感じつつも甘さに溶けて心地よい。雑味もなく、飲みやすいがしっかりとコクも感じます。大人の濃厚ベリーチョコレート、といったところか。クリスマスにぴったりではないでしょうか。

—-風味バランス—-

苦味 ★☆☆

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★★

焙煎 ★★☆  

フレーバー:ブルーベリー、チョコレート、蜜いも

農園データ

生産国ミャンマー
標高1150
品種SL-28
精選ハニープロセス

コスタリカコーヒー:自然と文化が育む一杯の魅力「ラ・リアピエサンホワイトハニー」〜2024年11月限定コーヒー

中央アメリカに位置し、小国ながらも自然保護とコーヒー文化で世界に知られるコスタリカ。その豊かな熱帯雨林と環境保護への意識、そしてコーヒーの一大産地としての存在感が魅力です。コスタリカの自然環境と保護活動、そしてコスタリカコーヒーの歴史、文化、主要な産地、特にタラスエリアのコーヒーとその精選プロセスであるホワイトハニープロセスについてご紹介します。

コスタリカの熱帯雨林と自然保護

 コスタリカは国土の約25%が国立公園や自然保護区に指定されている環境保護の先進国です。その小さな国土には、世界の生物多様性の約5%が集中しているとされ、ジャガーやピューマといった大型哺乳類から数え切れないほどの昆虫まで、多様な動植物が生息しています。特に、熱帯雨林は湿潤な気候と豊富な降水量を背景に、コスタリカの自然環境の象徴であり、地球規模の温暖化防止にも貢献しています。

1960年代から環境保護を国家方針として掲げ、1980年代には保護区や国立公園の設立を加速させました。さらに、再生可能エネルギーの普及にも積極的で、現在では国内エネルギーの多くを水力、地熱、風力で賄っています。環境保護と持続可能な発展を両立するコスタリカは、エコツーリズムでも注目され、観光業が国の経済を支えつつあります。こうした背景の中で、コスタリカ産コーヒーも持続可能な農業と地域経済の成長の一環として発展を続けています。

コスタリカのコーヒーの歴史

 コスタリカにコーヒーが初めて導入されたのは、18世紀末のことでした。その後、19世紀になると国を挙げてのコーヒー栽培が始まり、やがて国内外で高い評価を得るようになります。コーヒー産業はコスタリカの経済基盤を支え、特に19世紀後半には、コーヒーの輸出が国の主要な収入源となりました。コーヒーの栽培と輸出は、国のインフラ整備にも貢献し、教育や交通網の発展に寄与しました。

20世紀後半には、品質の向上と差別化を目指し、スペシャルティコーヒーの生産が盛んになりました。コスタリカは品質基準を厳しく守り、環境保護と高品質なコーヒーの生産を両立させています。この取り組みは、今日のコスタリカコーヒーが世界的な評価を得る背景となっており、コーヒー産業は今でもコスタリカの主要な輸出産業です。

コスタリカの主要コーヒー産地

 コスタリカには、いくつかのコーヒー産地があり、それぞれの地域が独自の風味や品質で知られています。主な産地としては、セントラルバレー、ウエストバレー、タラス、トゥリアルバ、オロシなどが挙げられます。これらの地域は、火山性の土壌と適度な標高、適した気候条件に恵まれており、高品質なコーヒー豆を栽培するのに理想的です。

各産地には特徴的な風味があり、たとえばセントラルバレーは豊かな酸味と甘みのバランスがよく、ウエストバレーは果実味が強くフルーティな風味が特徴です。コーヒー愛好家たちは、地域ごとに異なるコーヒーの味わいを楽しみ、その土地ならではのテロワールを感じ取ります。

タラスエリア:コスタリカ屈指のコーヒー産地

 コスタリカのコーヒー産地の中でも特に注目されるのが、今回のコーヒー産地であるタラスエリアです。タラスは、標高が1,200〜1,900メートルに達する高地で、火山性土壌と涼しい気候がコーヒー栽培に最適です。このエリアで生産されるコーヒーは、際立った酸味と甘み、そしてクリーミーな口当たりが特徴で、世界中のコーヒー愛好家から高い評価を得ています。

タラスのコーヒーは、特にそのバランスの取れたフレーバープロファイルが魅力です。シトラス系の酸味に加え、しっかりとしたボディと心地よい甘さが楽しめます。タラスエリアの農家は、高品質なコーヒー豆の生産に細心の注意を払い、収穫から精製、乾燥までのすべての工程を丁寧に行っています。このような農家の努力が、タラスコーヒーの品質の高さを支えているのです。

ホワイトハニープロセス:タラスの特別な精選方法

 コーヒーの精選プロセスにはさまざまな方法がありますが、コスタリカでは特に「ハニープロセス」が盛んに行われています。ハニープロセスとは、コーヒーチェリーの果肉を除去した後、ミューシレージと呼ばれる粘りのある層を一部残しつつ乾燥させる方法です。ハニープロセスには、ホワイトハニー、イエローハニー、レッドハニー、ブラックハニーといった種類があり、ミューシレージの残留量や乾燥方法によって風味が変わります。

中でも今回のコーヒーの精選プロセスのホワイトハニープロセスは、ミューシレージの残留量を最小限に抑えることで、爽やかでクリアな味わいを生み出す精選方法です。ホワイトハニープロセスを施したコーヒーは、酸味と甘みのバランスが取れ、軽やかなボディと上品な風味が楽しめます。タラスエリアでは、このホワイトハニープロセスが特に評価され、農家たちが細心の注意を払って行っています。タラスのホワイトハニーコーヒーは、コスタリカの自然と農家の情熱が詰まった一杯として、特に人気の高い商品です。

コスタリカコーヒーが世界で愛される理由

 コスタリカのコーヒーは、単にその品質が高いだけでなく、環境保護や持続可能な生産への取り組みも評価されています。コスタリカ政府は、コーヒー栽培においても環境への配慮を徹底し、農薬や化学肥料の使用を最小限に抑えるための支援を行っています。さらに、農家が経済的に安定した生活を送れるよう、フェアトレードやオーガニック認証を推進する取り組みも続けられています。

コスタリカのコーヒーは、その風味の魅力だけでなく、こうした環境保護と地域コミュニティの発展に寄与している点でも、多くの人々から支持されています。コスタリカの一杯のコーヒーには、自然と共存する暮らしと、それを支える人々の情熱が込められているのです。

コスタリカの自然と文化を味わう一杯

 コスタリカのコーヒーは、その豊かな自然環境と環境保護への取り組みの中で育まれています。特にタラスエリアのホワイトハニープロセスを施したコーヒーは、コスタリカのコーヒー文化と農家の努力が詰まった特別な一杯です。とりわけ、タラスエリアのホワイトハニープロセスで作られたコーヒーは、コスタリカの自然と共に育まれた特別な一杯です。豊かな酸味と程よい甘み、軽やかなボディが特徴で、他のコーヒーとは一線を画するクリアな味わいが広がります。この一杯を通して、コスタリカの環境と文化を体験できるとも言えるでしょう。

コスタリカのコーヒーは、その質の高さと独自性により、単なる嗜好品を超えて、世界中のコーヒー愛好家から「特別な体験」として受け入れられています。多くのバリスタがこの地域の豆を使ったレシピを研究し、その風味を最大限に引き出す方法を探求するなど、コスタリカのコーヒーは国際的なコーヒー業界でも重要な位置を占めています。

コスタリカのコーヒー文化の未来

 コスタリカでは今後も、伝統的なコーヒー栽培と新しい生産技術が融合し、さらなる発展が期待されています。コスタリカの若い世代もまた、コーヒー産業に対して深い誇りと愛情を持ち、革新的なアイデアでコーヒー栽培を続けています。サステナビリティの観点からも、無農薬栽培や再生可能エネルギーの利用など、環境に配慮した生産が進んでいます。

また、コスタリカではエコツーリズムの一環として、コーヒー農園を訪れる「コーヒーツアー」も人気を集めています。コーヒーの木々に囲まれた美しい農園で、収穫から焙煎、カッピング(テイスティング)までの工程を体験できるこのツアーは、訪れる人々にとって一生の思い出となります。訪問者はコーヒーがどのように育ち、精製され、カップに注がれるまでのすべての過程を知ることで、自然とコーヒー生産者への感謝の気持ちを抱くのです。

コスタリカのコーヒーは、自然環境への敬意と、地域の農家の情熱が込められた「サステナブルな一杯」です。熱帯雨林と豊かな生態系を守りながら高品質なコーヒーを生み出すコスタリカは、環境保護と経済発展の両立を成し遂げるモデル国と言えるでしょう。次にコスタリカ産のコーヒーを味わうときには、ただの一杯としてではなく、コスタリカの美しい自然と、その一杯に込められた努力や物語を思い浮かべてみてください。きっと、新たな視点でそのコーヒーの魅力を感じられるはずです。

味について

 香り高さが豆から溢れています。コクがしっかりと、舌で風味をたっぷり感じることができます。鮮やかに立ち上がる酸味と、えぐみのない苦味、上質なコーヒー、余韻にはスモークが漂います。パッションフルーツをかじったようなジューシーなフルーツ感も楽しめます。

—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★★☆

コク ★★★

甘味 ★★★

焙煎 ★★☆  

フレーバー:パッションフルーツ、アールグレイ、炭、カカオ、青草

農園データ

生産国コスタリカ
標高1820〜1950
品種カトゥアイ
精選ハニープロセス・ホワイトハニー

ブラジル「ダイバースコーヒー」:ブラジルコーヒー物語 太陽の国から届く至福の一杯を〜2024年10月限定コーヒー

ブラジルのコーヒー文化:コーヒーは国民の飲み物

 ブラジルの人々にとって、コーヒーは生活に欠かせない存在です。街角のカフェでは、エスプレッソやカプチーノのほか、ブラジルならではのコーヒーの楽しみ方が提供されています。

  • カフェジーニャ: 小さなカップに注がれた濃いエスプレッソに砂糖をたっぷり入れるスタイルが、ブラジルの伝統的な飲み方です。
  • カフェレテ: エスプレッソに温めたミルクを加えた、まろやかな味わいのコーヒー。ブラジルの家庭でよく楽しまれる一杯です。

ブラジルコーヒーの歴史と特徴:多様性を生み出した壮大な物語

 ブラジルとコーヒーは、世界のコーヒー市場において切り離せない関係にあります。ブラジルのコーヒー産業の発展は、同時に国の経済や社会、そして文化と密接に結びついてきました。ここでは、ブラジルコーヒーの誕生から現在までの壮大な歴史をご紹介します。


ブラジルコーヒーの誕生と成長

 18世紀初頭、ポルトガル人のフランシスコ・デ・メロ・パリェッタによってフランス領ギアナからコーヒーの種が持ち込まれたのが、ブラジルコーヒーの始まりです。当初、コーヒー栽培はブラジル北部で試みられましたが、気候が合わず、18世紀後半にミナスジェライス州やリオデジャネイロ州など、より適した南部へと移行しました。

19世紀には、ブラジルが世界有数のコーヒー輸出国となり、奴隷労働に支えられた大規模なコーヒー農園が急速に拡大しました。しかし、1888年に奴隷制度が廃止され、労働力不足を補うために多くの移民がヨーロッパやアジアからブラジルへと渡ってきます。移民たちの努力により、ブラジルのコーヒー産業はさらに発展し、20世紀にはブラジルが世界最大のコーヒー生産国としての地位を確立しました。


ブラジルコーヒーの多様性

 広大なブラジルの国土は、気候や土壌が地域によって大きく異なるため、コーヒーの風味も多様性に富んでいます。

  • アラビカ種: ブラジルでは主にアラビカ種が栽培されており、その風味豊かな特性で世界中のコーヒー愛好家に愛されています。また、エスピリトサント州ではロブスタ種(カネフォラ種)も盛んに生産されています。
  • 産地の違い: ブラジルにはミナスジェライス州、エスピリトサント州、サンパウロ州など主要な産地があり、それぞれの気候や土壌の違いがコーヒー豆の味わいに影響を与えています。
  • 標高の違い: 高地で育てられたコーヒー豆は酸味が強く香り高い一方、低地で栽培された豆は豊かなコクとしっかりしたボディを持っています。ブラジルのコーヒー産地は中程度の標高が多く、バランスの取れた味わいを生み出しています。
  • 精製方法の違い: ブラジルではナチュラルプロセス(乾燥)やウォッシュドプロセス(洗浄)などの精製方法が使われており、それぞれの方法が風味に独特の違いを与えます。

ダイバースコーヒー:ブラジルコーヒーの多様性を体験

 今月の主役は「ダイバースコーヒー」。このブレンドは、ブラジル各地の異なるコーヒー豆を組み合わせ、多様な風味を楽しめるように作られています。もう一つの特徴は身体に障害を持った方々が働く農園でもあります。

単に異なる産地の豆を混ぜたものではなく、それぞれの豆が持つ独特の特徴を引き出し、丁寧にブレンドされています。


ダイバースコーヒーの産地:セラード、モジアナ、南ミナス

 ダイバースコーヒーに使用されているのは、ブラジルを代表する3つの主要産地、セラード、モジアナ、南ミナスからの豆です。各地域の特徴を見ていきましょう。

  • セラード: ブラジル中央部に位置するセラードは、標高1000メートル前後の高地に広がり、乾燥した気候がコーヒー栽培に理想的な条件を提供しています。この地域のコーヒーは、バランスの取れた風味と力強いコクが特徴です。
  • モジアナ: サンパウロ州北部とミナスジェライス州にまたがるモジアナ地域は、歴史的にコーヒー栽培が盛んな地域です。標高が高いため、繊細な酸味と豊かなアロマが引き立つコーヒーが生産されています。
  • 南ミナス: ブラジル南部のミナスジェライス州は、フルーティな酸味と明るい香りを持つ高品質なコーヒーで知られています。肥沃な火山性土壌と適度な標高が、豊かな風味を持つコーヒーを育みます。

ブラジルの主要なコーヒー産地

ブラジル全土には、数多くのコーヒー産地が存在します。以下はその中でも代表的な産地です。

  • ミナスジェライス州: ブラジル最大のコーヒー生産州で、セラード、モジアナ、南ミナスといった有名な産地が含まれます。
  • エスピリトサント州: 標高が高く、冷涼な気候が特徴です。特に高品質なロブスタ種の栽培で知られています。
  • サンパウロ州: ミナスジェライス州に次ぐ生産量を誇る州で、特にモジアナなどの地域で高品質なアラビカ種が生産されています。

 ブラジルコーヒーの歴史は、国の発展とともに歩んできました。広大な土地、多様な気候、そして人々の努力が、今日のブラジルコーヒーの多様性を形作っています。ダイバースコーヒーは、その豊かな歴史と各産地の魅力を詰め込んだ特別なブレンドです。ぜひ、この一杯でブラジルのコーヒー文化とその多様性を体験してみてください。


味について

 初めて口にした時は薪から漂うスモークとしっかりとした苦味が感じられて深みある重為のコーヒーかなと思いきや、少しずつ飲み進めるほどの甘さが出てきて、カップの底に近づくと柔らかさと穏やかな酸味が現れてきて、なんとも飲みやすさが溢れてくる。ゴツゴツの岩山の隙間を縫うようにしてくぐり抜けた先に一面に広がる草原に癒される、そんなストーリーを見せてくれるコーヒー。

—-風味バランス—-

苦味 ★★★

酸味 ★★☆

コク ★★☆

甘味 ★★☆

焙煎 ★★☆  

フレーバー:薪、スモーク、カカオ

農園データ

生産国ブラジル
標高
品種No2 S17/18、No4/5 S14/15/16
精選セラード、モジアナ、南ミナス